約 2,380,714 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2689.html
第一話:仮装姫 俺の学生としての朝は早い。授業がだいたい、一限目からあるのもそうだが、蒼貴、紫貴のメンテもしなければならないからだ。不本意ではあるが、杉原からそれに関する知識を学んで、それから日課にしている。工業大学所属の俺としては精密機械をいじれるのは授業の助けになっており、非常にプラスに働いている。二人を整備できて成績アップになるのだから苦にはならない。 蒼貴と紫貴とああだこうだ雑談しながらそれを終えたら、大学に行くべく、スマートフォンやら財布やらの常備品や道具を詰めた通学用のカバンを持って、二人に見送られながら部屋を出る。ここからは大学生 尾上辰巳として活動するのだ。 家の外へと出たら、大学へと向かう。通学には電車を使っている。その気になれば時間はかかるものの、自転車でも通えるのだが、電車の方が帰りの飲み会などの時に都合がいいからだ。 「今週の週刊バトルロンドを見たか?」 「ああ。また双姫主の尊がランカーをぶっ倒したらしいぜ? これだけの事をやっていて何で素性を隠すんだろうな?」 「さぁ……? 闇バトルをぶっ潰したこともあるとか、バーグラーに結構、因縁つけられているとか黒い噂もあるからじゃね?」 「ほんと、すげぇよな。憧れるぜ……」 大学へ行くための電車の中で何やら中二病でも患ってそうな残念な二人組が俺の噂をしている。誠に申し訳ないが、実際には学生生活でそれがバレると人間関係上、非常に好ましくない事になるからだし、ランカーとかバーグラーに関しては倒す必要のあったり、止むを得なかったりする相手がたまたまそうだっただけだ。十中八九、お前らのヒーロー像を台無しにするだろう。 内心、軽い謝罪やら、憧れの否定やらが混ぜこぜになった気持ちでそいつらをスルーして大学のある駅を降りる。駅を降りて、徒歩十分の所に俺の大学がある。少しは名の知れた工業大学で中堅に位置するまぁまぁな大学だ。ちなみに男性八割、女性二割のむさ苦しい環境にある。工業大学にはよくある事である。 そうそう、『尾上辰巳』と『尊』の時は髪型のセットを変えたり、伊達眼鏡の有無でかなりの差をつけている。俺を知るヤツでもない限りはバレる事はない。 十分間、通学路を歩いていく。今回も例によって気づかれる事なく、通り過ぎることができた。 「尾上~。授業行こうぜ~」 振り向くとチャラ男のテンプレの様なファッションの男がいた。 樺符 守。それが彼の名前だ。高校時代からの友人で大学でもよく同じ授業を取るため、大学に行くと高い確率で会える奴だ。 「ああ。確か、今日の一限は埴場先生の心理学だったな」 「メンドくせぇんだよな。あの先生の神姫の心理とかの話はよ。神姫なんてキモいだけじゃん。オタクの最新アイテムってだけだしさ」 「そう言うな。授業に出れば単位はもらえる」 「ははっ。それもそうだ。今日も寝てそうだぜ」 この様に神姫はオタクのフィギュアと同列と認識している。神姫には心はあるが、彼の場合は実際の女性と遊ぶことの方が遥かに楽しいし、神姫など所詮はロボットだし、フィギュアの延長線としか思っていない。それが真っ当だと思っているのである。 勘違いしないでほしいが、俺は神姫マスターになっても彼を嫌ってはいない。普段の守は根は優しいし、面倒見はいい。サッカー部ではエースストライカーを任されるほど、しっかり努力をしている。普通の人間としては恰好を除けば極めてまともなのだ。そして、彼の神姫への認識は別に大衆的な観点から言えば、間違っていないのだ。 神姫は確かにオタクが多くもっており、アレな衣装を着せて好き勝手やっている様は野郎がお人形遊びしている様にしか見えないという偏見は少なからずある。そもそも俺もその一人だったのは蒼貴と出会ったばかりの時の通りだ。 彼女と出会う前は工業大学で剣道をしながら、守を初めとする友人達と遊ぶ神姫とは無縁の生活をしていたのである。 「そういや最近、お前は忙しいのか? いや、誘っても頻繁には来なくなったからよ」 「バイトが忙しくなったのと、友達が増えてスケジュールが埋まるからだな。お前も結構、増えたんじゃないか? もう俺達も大学二年の後半だ」 「確かにそうだな。すまねぇな」 「気にするな。プライベートは人それぞれさ」 蒼貴と会ってからは、こうして嘘もついている。大学生活と神姫生活の二重生活のためにな。 後は守と適当な雑談をしながら、教室へと入って席に付く。周りを見てみると神姫たちが見え隠れしているのがわかった。 デブがマリーセレス型と戯れていたり、生きていられるのかと不安になるほどガリガリでビン底の様な度の凄そうな眼鏡をかけた奴は他の人達に目もくれずにラプティアス型とボソボソと話をしていた。 「うっへぇ。相も変わらずってもんだなぁ……」 彼らは極端な例だが、こうした光景を見ると守が気味悪がるのもわからないでもない。こういう光景が珍しくないのが現状の神姫のイメージと思われても仕方のない事のなのかもしれない。城ヶ崎玲子や藤堂亮輔の様な金持ち美人や若い妻帯者が神姫をやっているというのが少しでも見られれば少しは守のイメージは変わるかもしれないが、この場でそういった類の事は……あまり期待できない。 何も返事をすることのできない俺はその言葉を無視して、筆箱やら、ノートを自分の前に出して準備をする。 「お前は本当に真面目だよな。この授業ってテストあるけど、受けていなくても取れるって先輩の話だろ?」 「だからといってやらないのもな。ものは考えようで楽しめるさ」 呆れ半分、感心半分な口調で俺のその行動を守は授業の事を言ってきた。その返事は表側はそう答えたが、本当は埴場先生の神姫を交えた心理学の授業はなかなか興味の持てる内容であり、蒼貴と紫貴に出会って以降、後期の授業で取ろうと決めていたのだ。 「変わってるなぁ。まぁ、いいや。俺は寝るぜ……」 「また、夜遅くまで起きていたのか。よくやるなぁ」 「大学の奴とSkipeでダベっていたら結構な時間になってな……」 「そうか。まぁ、ゆっくり休んどけ」 「おう……」 適当に納得した守はSkipeで寝なかった時間分を補うためにすぐに机に突っ伏して眠りに入った。俺は彼をそっとしておく事として、授業の開始するまでスマートフォンを使った情報収集をする。イリーガルマインド関連の噂、有名なオーナーの噂と色々と調べ物をする。 十分後、教壇に埴場玲太先生が自分の神姫であるクラリスと呼んでいるアルトアイネスと一緒に立った。 「やあ。こんにちは。これから授業を始めるよ。最近、イリーガルマインドの偽物が出回っているらしいから気を付けてね。そういう違法パーツに惹かれる心理というのはだね……」 「教授。必要な事は伝えたんだから授業」 「そうだね。では始めよう」 埴場先生は心理学的な興味から神姫を始めた人で、そこからはまり過ぎてFバトルと呼ばれるライドオンシステム形式のバトルロンドの大会において、F0クラスで上位ランカーになったことがある程の実力を持つほどになったらしい。 ただ、××××という青年がF0にやって来ると、彼は二十位からあっさり先生のランクまでたどり着き、すぐに先生を超えて、一位をかっさらってしまったとの事だ。 ××××は違法DLアプリ事件と謎の連続爆発事件を解決し、長きに渡り、F1チャンピオンだった竹姫葉月をも超えたトップランカーだ。最強の名を欲しいままにする彼はいったいどうしているかはその事件以降はわからない。だが、「お人よし」だの「どんな神姫も認めるマスター」だの様々な言葉で多くの人に認められている彼の事だ。決して迷うことなく、正しいと思う道を行くだろう。 「……この様に相手の都合の悪い秘密を知ってしまうと、ギャップが生じてしまうんだ。簡単に言えばイメージが崩れたとか、こんなのは彼なんかじゃないとかそんな感じだね。あいどるなんかの知らない一面を見たときなんかにそれを感じたことはないかな? 他の人の神姫なんかでもいいかもしれないね」 今回は秘密、隠し事による気持ちの変化の授業であるらしい。皮肉にもそれは俺は大きく該当することになる。もし、守に自分が神姫を持っていることがバレれば、神姫を、そのマスターのイメージを嫌悪している彼はイメージとは違う俺を見て、拒否するかもしれない。 そうなれば、これまでの友情が壊れてしまうだろう。それどころか、噂が広まって大学での自分を見る目を皆は変えてしまうかもしれない。だからこそ、俺は神姫を持っていることを隠し通している。これまでの自分の繋がりを失わないために、な。 全く、何が『双姫主の尊』か。あるのは対戦で勝った事実だけで、大衆のイメージには無力だ。 「それを利用して悪さをする人もいる。脅迫ってヤツだね。そういうのは一度、応じてしまうとそうした人達はもっともっととやるのは映画なんかでもよくあるシチュエーションだ。チョコレートをあげたら今度はケーキをって具合にね」 問題はこういう所だ。必要に応じて選択していく必要があるだろう。当然、金銭やら物品を要求してくるならほっとくか、状況に応じてこちらもバラせない状況を作る。単純なバラす事だけをしたいというなら何かしらの勝負をして黙らせるだけで十分だろう。 もっとも、そういう事が無い様にわざわざ変装をしているのだからそんな状況に陥らないのが一番なのだが。 「さて、これで授業を終わりにしよう。来週は先週言った中間レポート提出があるから忘れないように頼むよ」 クラリスにたしなめられながらの埴場先生の授業が進むと、チャイムが鳴った。そうするとキリの良い所で埴場先生は授業を終わらせ、来週の連絡事項を伝えると教室から出て行く。 「ん……。辰巳、授業は?」 それと同時に周りの人達が雑談を始め、その多くの声で守が目を覚ました。 「もう終わった。来週はレポートらしいから忘れるなよ」 「先週の連絡のか……。わかった……。あ~、ねみぃ……」 「……俺は次の授業に行く。お前も遅刻しない様にな」 「結構、遠いとこの教室だったな。お互い、頑張ろうぜ」 「ああ。またな」 簡単に連絡事項を伝えると、お互い違う授業であるため、俺は守と別れて次の授業へと急ぐことにした。 次の授業はC言語のプログラミングだった。その辺りは蒼貴や紫貴のシステムチェックで覚えた知識が活かせるのでさほど、苦戦する授業ではなかった。 俺は授業以上の事はしなかったが、その手の変態の物となると神姫のオリジナルスキルプログラムを作ったり、他のロボットプログラムを作ったりと多種多様な専門的な話が行き交っていた。 武装神姫を初めとするロボット分野のシステムの幅の広さには内心、驚くものがある。オタクがなんだろうが、こうしてとんでもない技術をもっているのなら、問題はないはずなのだが、彼らは趣味がアレな方向に突っ走っている。そのため、他の人からはちょっと変な目で見られがちだ。バカと天才は紙一重とでもいうのだろうか。 授業が終わると昼休みに入る。俺は食堂で食事を取っていると、神姫関連の噂が飛び交っているのを耳にすることができた。それは狂乱の聖女やイリーガルマインドという実際にあった事例のある噂から、『異邦人(エトランゼ)』や『大魔法少女』といった通り名持ちの有名なオーナーの話まで非常に種類が豊富だ。 神姫オーナーになってみると毎日の様に聞ける訳の分からない単語も理解できるようになってきている。それだけ自分も武装神姫を知ることができているという事か。 食事が終わった後は後半の制作実習を神姫のメンテ技術を活かしてこなす。かなり基礎的なものであり、いつものメンテに比べれば楽な授業だった。 最後は部活だ。剣道部に所属をしていて、子供の頃から祖父の教育で様々な武術を習わされた経験の積み重ねから二年で指導する立場にあった。 「身体全体を使え。身を固くせず、柔らかく、円を描くようにだ」 俺は指導をしながら、後輩の連続攻撃を避ける、いなすと攻撃を見切った上での防御をしてみせる。 「そしてそれを闇雲にやるんじゃない。必中の気持ちでやれ」 後輩の攻撃は直線的であり、あまりフェイントもしてこないため、読みやすい。これでは勝てる試合も勝てない。 「わ、わかりました!」 今度は俺の隙を見計らうつもりか、闇雲に攻撃してこなくなった。いい傾向だ。 しばらく、狙いを定めるかの様に俺をにらみつけた後、面を仕掛けてきた。いい攻撃ではあるが……。 「胴! ……っと」 大振りのそれを素早い胴で切り抜け、一本を取ってみせる。一歩遅れて後輩の面も放たれたが、既に俺のいない場所の空を裂くだけだった。 「良い攻撃だったが、大振りだ。もう少し素振りをして、無駄なく触れるようにするといいだろう」 「はい!」 後輩のアドバイスをすると、彼は自分からそれを実践し始めた。これでこの後輩への指導のキリはいいと考え、別の後輩を捕まえるべく動こうとすると何やら二、三人が固まって議論しているのをみつけた。 「それにしても尾上先輩が神姫に指導をしたらどうなるかなぁ?」 「何かその神姫は化け物になりそうだよね。先輩、教え方上手いし、戦略ゲームを携帯ゲーム機でやってるのを見たことがあったけど、簡単にクリアしてたし」 「戦い方も超厳しいお爺ちゃんから、子供の頃から様々な武術を叩き込まれてて、わかっちゃってるからなぁ。マスターのスペックがそのまま、神姫に反映されたらすさまじいだろうさ」 「ああ。だから、この部活に多く来ているわけじゃないのに、あんなにすごく強いんだなぁ」 半ば本気、半ば冗談で俺が神姫に技を教えたらどうなるかが議題ならしい。 実際に持ったまでは現実になっているが、化け物にはなっているとは到底思えんのだがね。それに神姫で必要なのはパートナーとなる神姫との連携だ。それを幾千幾万通りと考えられる発想力があれば、特に武術やら才能やらがなくても、努力次第で違ってくるはずだ。どっかの雑誌じゃ、努力と友情と勝利という三つのキーワードを掲げているが、割とそんなものなのではないだろうか。 「おい。何話してんだ? 今は稽古中だぞ?」 「あっ!? すいません!!」 「先輩って神姫は知ってますか?」 「……周りで聞く程度にはな」 「それに先輩が戦い方を教えたらすごくなるんじゃないかって話していたんです。先輩、神姫をやってみませんか?」 「すまんが……時間がないから難しいだろうな。それより、稽古だ。ここで話をしている暇があるなら練習するぞ」 せっかくの誘いだが、俺は隠し、断る。それを了承することはない。尊の時もそうだ。こいつらでは尊が俺だと察してしまう。心苦しくはあるが、隠し通すしかなかった。 話題を稽古に無理やり切り替え、後輩達の指導をつづける事、一時間前後。剣道部の稽古が終わり、俺は帰路に付いた。 今日は一旦、家に帰って、蒼貴と紫貴を連れて、真那のバトルロンドの練習に付き合う事になっていた。少々早めに帰る必要があるだろう。あいつは遅れると色々とうるさい。 「ねぇ」 そんな中だった。駅に着く前に突然、肩を叩いて呼び止められる。その声の方を向くと女性がいた。彼女は……確か、弓道の竹櫛鉄子さんだった。 「何だ?」 「君が双姫主の尊君?」 「尊? 誰だか知らんが、人違いだ」 ポーカーフェイスな返事とは裏腹に竹櫛さんの言葉に俺は内心、驚愕した。変装をどうやって見破ったというのだろうか。 「そうなん? 君、『あのイベント』におったでしょ?」 「いや、いなかった」 「ああ、まどろっこしい奴だな。鉄子ちゃんよぉ。写メ見せてやんなよ」 突然、カバンからキツネ耳が特徴的な確か……レラカムイ型の神姫が出てきた。そいつは確か、コタマと遠野のイベントでは呼ばれていたのを聞いたことがある。 そして、彼女に促され、鉄子が携帯の画像を俺に見せてきた。 ……そこには俺がVRマシンで対戦をしている様子が写されていた。 動かぬ証拠だった。確かにこれだけしっかり撮れていれば、こうして偶然見つけたらわかってしまうだろう。ここまでの物を撮られているとは予想していなかった。いや、気づかれないと高をくくっていた自分の油断だったのかもしれない。 いずれにせよ。これ以上は言い逃れはできそうになかった。 「……場所を変えようか」 これ以上の正体バレを防ぐため、俺は彼女を別の場所……通学路から大きく外れた喫茶店へと誘う事にした。 それに対してコタマは少々不服そうだったが、二人は了承し、俺に付いて来てくれた。現状はこれでこの二人だけが知っていることになると考えられる。その後はこいつらとどう話を付けるかだ。 これは……面倒なことになった。 トップへ 次へ
https://w.atwiki.jp/busou_bm2/pages/145.html
[部分編集] カービン もともとは馬上で使用する軽量なライフルの事。現在では室内等で使いやすい短くされたライフルをこう呼ぶ。ただし明確な定義はない。ライトガンカテゴリーのイーダ型の武装。ライフルとハンドガンがあるので選ぶ時は注意。 ガイア ヴァルハラのトップに君臨している(いた?)神姫マスター。専用シルエットのオーラ(?)により独特の雰囲気をかもし出している。その厨二病溢れる言動から色々とネタにされ、「大地さん」と親しまれて(?)いる。かっこいい専用戦闘BGMがあるが、イベント戦でしか聞けない。相方はストラーフMk.2のハーデス。説明では他人の大事なものを壊すことが好きなS(意訳)とあるが、むしろただの戦闘狂という方が近い。とりあえずチューブステージでCHIKARAはやめて下さい。 楽器 打撃武器の一種なのだが、このゲームのルールにおいて弱い要素が揃っているためどうにも使うのが難しい。ちなみに打撃に使用する割に何故か打楽器はない。もちろん楽器は本来武器ではないが、ゲーム等では武器として登場することがたまにある。なお、DLCで登場する武器パラボナソナー"マポノス"は楽器カテゴリの武器では楽器の形状はしておらず、純粋な兵器の形状である。補足:ベイビーラズは公式に打楽器を持っているが、ドラムセット本体はリアパーツ、スティックはダブルナイフ扱いであり、パーカッションは通常頭に付けているためか武装ですらない。 勝ち組 何かの要素で勝っているとされる者達の事。男性ならば身長・財力・ルックスなどだったりするが、女の子ばかりな神姫においては一部パーツの大きさで決まると言われる。バトマスでは一般的にイー姉、レーネ、アーク、紗羅檀、オールベルンあたりが勝ち組と呼ばれる。一方で負け組とされる神姫については記述を避けるが、おおむね指摘するとムキになるのが負け組だとい(ここから先は何かで汚れていて読めない)勝ち組側は大抵その事に自覚が無く、「大きくてもそんなにいいことないんだけどなぁ」といった発言が飛び出すことが多い。…ある奴と無い奴の溝は何よりも深く昏いのである。ちなみに、神姫の場合胸パーツは換装できるが、やっぱりそういったパーツは需要があるのか和津香のような悲劇を産むことになったりも…。 滑腔砲 戦車などの大砲で砲身内に砲弾を回転させる旋条がないもの。より高速で砲弾を発射したり、回転すると効果が落ちるタイプの砲弾を発射するのに使う。神姫では、フォートブラッグのリア装備、FB1.2mm滑腔砲がこれにあたる。神姫の装備では、なぜかバズーカ扱いである。対して、砲身内に施条を切って砲弾を回転させる砲をライフル砲(施条=ライフリング)と呼び、こちらは回転することで砲弾の飛行が安定するので、より命中率を求めるタイプの砲弾用の砲となる。 ガトリング ガトリング砲。100年以上前に発明された機関銃。多銃身がリング状に配置されていることが特徴で、複数の銃身を回転させる事で装填、発射、排莢のサイクルを自動で繰り返しつつ連続射撃を行うことを可能とした。手持ち式ガトリングは単銃身で連続射撃が可能かつ軽量の機関銃の登場で一気に廃れたが、同じ数の弾丸を発射した場合銃身が複数ある分だけ銃身へのストレスが減るため発射サイクルを上げても銃身寿命が長い、万一不発弾などの不具合が生じても滞りなく次弾を発射できる等の利点があり、現在では重量が大きいことより動作不良が問題になる航空機搭載機関砲や艦船のCIWSに採用されている。なお、初期は手動式だったが、現在は電動等が用いられる。ちょっと使いにくい武装だがRA「T・ARMS」を入手するとつい使っちゃうんだ。 ガブ/ガブ子 ガブリーヌの俗称の一つ。 ガブリーヌ パンドア製神姫、ヘルハウンド型ガブリーヌ。前作DL神姫でシナリオは第7号にて実装される。自分は地獄から来た、と主張するが、同期の蓮華には「地獄の駄犬」呼ばわりされていた。グラ姐未登場の本作においては、唯一の褐色肌神姫である。 金朋地獄 蓮華の中の人、金田朋子嬢の言動が、あまりにハチャメチャで聞いた者の腹筋を破壊する上に抜け出せなくなる中毒性を持つところから付けられたもの。既に固有魔法の域に達しているとも。バトマスのプレイ動画でも、蓮華が取り上げられると、もれなく金朋地獄のタグが付けられている。今から蓮華のシナリオが実装される日が心配楽しみである。←DLC第5号にて実装。予想通りの金朋地獄が堪能できましたw余談だが、本人のブログ名が「カネトモ地獄 早起きは三文の毒」であり、ある意味公認の言葉である。 キシマさん プロキシマの俗称の一つ。 キメラ キメラ装備とも。複数の動物の混ざった姿をした神話の合成獣キメラを語源とし、転じて神姫各々の純正装備以外の武装を一つでも装備した状態を指す。見た目の整合性やキャラクター性より、よりストレスなく嫁神姫を操作できることを重視したアセンブルスタイル。しかし実際アビリティの補完、戦闘スタイルの自由度確保のため、アクセサリーと武器については何がしか純正以外のものを装備しているプレイヤーがほとんどで、暗黙のうちにアクセサリーと武器に限っては何を装備していてもキメラではないと見なされている。また、固有RAを使用できる純正武装だけでコストを使い切ることはまずないので、空いている部位に追加の武装を施す「純正+α」のアセンブルもごく普通に行われる事である。対戦の際にはこのあたりについてどうするか確認しよう。ぶっちゃけ完全純正以外のアセンブルがアリかナシかで全く別のゲームになる。古くは神姫のゲームがバトロンのみだった時代からある単語で、性能重視で外見がすごいこと(全身ハリネズミのようにブースターがついているなど)になっている神姫が主にこう呼ばれた。キメラの名はそのような外見も関係していたのかもしれない。バトロンでは最終的に武装がまったく同じで素体だけ違う神姫ばかりという状態になったこともあり、「(性能的)個性がなくなる」という事実から「キメラ」を否定的に考えている層も少なくない。しかし武装神姫はもともと公式に組み替え遊びを是としている玩具であり、組み替えの自由がある。結局は「他所は他所、ウチはウチ」の精神が大切ということだろう。また、先の経緯からキメラという呼び方を蔑称として使う人、受け取る人も少なからず居るので空気を読む事も忘れずに。 キャッキャウフフ 一般的には「じゃれあう様子」をさし、神姫とイチャコラする意味で使われる。「キャッキャウフフ」と半角で記載することが通例である。 旧黒子 初代ストラーフの俗称の一つ。ストラーフMk.2と区別するための呼び名。 旧白子 初代アーンヴァルの俗称の一つ。アーンヴァルMk.2と区別するための呼び名。 牛丼/ぎゅうどん/ギュウドン/ギュウドン 戦乙女型アルトレーネの事。バトルロンドやバトルマスターズにおいても、ぎゅうどん会話ネタがついてきたため。 キュクノス ドレス・メカニカ製神姫、白鳥型キュクノス。鴉型アラストールと同じく、コナミが2011年にイベントと通販のみで発売した神姫で、武装部分はレジンキャストになっており、素体はMMS NAKEDを用いる。彼女の登場のために、ガレージキット版で白鳥・黒鳥と呼ばれていたオールベルンが剣士型にされたと勘違いされ、一部のファンからあらぬ恨みを買う羽目になっていたりする。(実際にはオールベルンが「剣士型」として製品化が発表されたワンダーフェスティバル後の飲み会で製作が決まったため、無関係と思われる。また、オールベルンガーネット・ジールベルンサファイアもほぼ同時に発表されており、そちらの影響とも考えられる)アラストールと同様に、武装セットのみがDLC第7号にて実装される。オールベルンにキュクノスのリアを組み合わせ、「白鳥型オールベルン」を再現した紳士も多いのではないだろうか?戦力面でも、オールベルンの純正装備にキュクノスのリアを組み合わせると空中移動系のアビリティが全て揃う(急上昇・急降下、空中ダッシュが追加)ので、悪い組み合わせではない。 強化ミミック ストーリー終盤とクリア後のMAPにてエンカウントするミミックの強化型。SPDとDEFの初期値がずば抜けており、他の部分の数値も素体中で高い部類である・・・が、このゲームではSPDの値が反映される上限がある。また出現の条件を考えると自神姫も十分に強くなっている為、あまりミミックと大差なく感じるかもしれない。ただし、ジャスティスやミミックを育てているときには、Love1だろうと、外に出ると強化ミミックが襲ってくるので、そこだけは注意されたし。 グラフィオス マジックマーケット製神姫、サソリ型グラフィオス。素体未登場だが武器(レサートロッドシステム等)だけ登場。AIは非常に好戦的な性格付けがなされており、「悪の組織の女幹部」や「魔王」などと称される性格の持ち主。ことバトルに関してはマスターに対しても高圧的にふるまうことも。イーアネイラ並の豊満ボディに、胸部装甲とサイハイソックス以外は紋様を描いただけの実質裸という抜群の露出度を誇り、美少女型が大多数を占める神姫達の中で他にイーアネイラ型、プロキシマ型くらいしか居ない美女型。加えて他にはガブリーヌ型しかいない褐色肌であるなど希少性要素のオンパレード。選択肢を広げる意味でも、バトマスにも登場して欲しかった。武装の殆どがリアに集中しているのが特徴。また武装を組み合わせてサソリ型ビーグルメカ「ウィリデ」に変形させることも可能。更に複数の神姫の武装を合体させるシステムに対応し、同時期に開発されたウェスペリオーと互いの武装を合体させることで、大型ドラゴン型メカ「ゼオ」を作り出せる。そのためフィギュアのプレイバリューは非常に高い。このロマン溢れる複数の神姫の武装を合体させるシステムを持つ神姫は、グラフィオス ウェスペリオーの「ゼオ」の他に寅型ティグリース 丑型ウィトゥルースの「真鬼王」 「ファストオーガ」とカブト型ランサメント クワガタ型エスパディアの「ヘラクレス」がいるが、残念ながらバトマスには一切登場しない。 クラブヴァルハラ メインストーリー中盤以降に登場する非公式バトルを行っている賭博場。名の由来は北欧神話において決戦のときに備え戦士達の魂を集める宮殿ヴァルハラ。勝てば相手の武装を手に入れ、負ければ武装を剥奪される。ここにしか出てこないマスターもいる。登場時点では非合法な場所のはずなのだが、ゲームセンターで見かける面々がホイホイ出入りしていたり、違法改造が横行している割に敵の戦闘能力に差異はないなどあまり緊張感はない。浄化後はそれに拍車がかかる。tipsにもあるが問題なのは現金による賭博と神姫の違法改造であり、ここでの神姫バトル自体は違法ではないため安心してほしい。一部マスターが、賭け金がどうのこうのと呟いていることがあるが、聞かなかったことにするのが大人の対応である。柴田君の武器がピコピコハンマーだけになっている。もうやめて、柴田君の使える武器はゼロよ! グループケーツー 武装神姫世界における神姫製造メーカーのひとつ。フブキのメーカー。長らくシンボルマークが不明だったが、フブキ弐型 ミズキ弐型のマーキングに、縦に並んだKKを図案化したものがあり、これがグループケーツーのシンボルマークと思われる。 クレイドル 神姫の充電に使われる充電器。主人公の部屋にはクレイドルが1個しか確認されていないため、34体以上の神姫をどうやって充電しているのやら…。主に人間でいう寝床のような形で利用するものらしい…が、アークのイベントではどう聞いても押し込んでいる。なお、同イベントの話を聞くと、どうやら一つのクレイドルを使い回している様子だが、さて…。コナミスタイルで通販グッズとして販売もされたりするが、こちらは無論神姫の充電機能は付いていない。代わりと言ってはなんだが、USBに差すとランプ部分が光る。…ただ、それだけである。 黒子 悪魔型ストラーフの俗称の一つ。今作ではストラーフMk.2も含む。 黒にー 悪魔型ストラーフMk.2の俗称の一つ。黒=ストラーフ にー=Mk.2(に)。間違っても黒いニーソックスの略ではないぞ。大体誇り高いストラーフがそんな装備など…、あー、ど、どうしてもというのなら、その…ゴニョゴニョ 黒星紅白 アフォンソファクトリー製のエストリルとジルリバーズの素体部分を手掛けたデザイナー。代表作はキノの旅やサモンナイトなど。エストリル・ジルリバーズ発表時に降臨した本人のコメントによるとペロリストらしい。 軽白子 天使コマンド型ウェルクストラの俗称の一つ。「軽」なのはライトアーマーシリーズのため。ちなみにヴァローナはこの法則からだと「軽黒子」だが、モチーフからか夢魔子と呼ばれることの方が多い。 ゲイルスケイグル(EX) アルトレーネ専用レールアクション。前作では当てにくいレールアクションの代名詞だったが、今作では威力共に大幅な改善をみられた。が、槍の向きが逆なのはアルトレーネ型のいつもの事だったりする。バトロンではちゃんとした向きで投げるのにどうしてこうなった。ちなみに名前は北欧神話に登場するワルキューレの一人の名前からで、「槍の戦」の意味。 ゲームセンター 娯楽施設。他の神姫オーナーたちと神姫バトルを行う場所。子供からお年寄りまでが利用しているが、神姫上級者も多く訪れるようで、普通の人はちょっと入りずらい雰囲気を醸し出しているような気がしないでもない。。ツガルによると主人公が的確に変人を選んで戦っているだけらしいが…あるいは単に主人公の周囲に濃い人が集まりやすいだけなのかもしれない。隣町にもゲーセンがあり、筐体からレイアウトまでまったく同じようだ。全国展開なのだろうか。ちなみに、画面を見るかぎりレースゲームらしきものが見え、他にも紗羅檀のシナリオでリズムゲーム(「神姫が乗って足で遊べる」ということから、恐らくbeatmaniaIIDXだと思われる)が置いてある事が分かっている。 ケモテック 武装神姫世界における神姫製造メーカーのひとつで、ハウリン・マオチャオなどのメーカー。名前通り主に動物を題材にした神姫を取り扱っており、会社のシンボルマークも動物の顔を図案化したもの、と徹底している。神姫デザイナーBLADEのデザイン神姫はほぼここ。 誤爆は神姫名うp スレで誤爆してしまったときは、自分の神姫達につけた名前をうpしなければならないというバトルマスターズ神姫スレの鉄の掟。元々はおもちゃ板の武装神姫スレの鉄の掟「誤爆は神姫(の写真)うp」から。 コナ☆スタ コナミの通販サイト「コナミスタイル」の事。表記の「☆」は略称の語感が某アニメに似るため。武装神姫の限定商品などを取り扱っていたりする。特に地方在住の武装紳士にとって、一般流通しないリペイント版神姫を入手するほぼ唯一の手段でもある。クリアファイル等の「コナスタ限定の」オマケがついてくることも多い。価格は基本的に定価販売(ごくたまにセールをするが、ほぼ瞬殺される)。値段は気にしないが確実に欲しいという場合、ここで予約するのも手だろう。 固有RA 各神姫に特定の武装を施した状態でのみ使用可能になる専用RA、および特定ライバルが使用してくる特殊RAのこと。神姫専用RAにはランク3~5武装を使う通常版(1体のみ例外)と、ランク6~7武装を使うEX版がある。基本的に数を撃ってこその射撃系RAはスキあらば発射できる通常版のほうが使い勝手が良いが武装が貧弱になるという問題があり、EX版はライドマックス状態でしか使えないため出したいときほど使えない。武装も含めて性能はピンキリ。だがやはり、トドメはこれで締めたい。 コンマイ コナミの蔑称あるいは愛称。“KONAMI”をローマ字入力する際、"KONMAI”と打ってしまうことが少なくないことから。またあるアーケードゲームでコナミ自らが誤植してしまったこともある。
https://w.atwiki.jp/busou_bm2/pages/154.html
入手条件 性格 声優 デザイナー 素体性能プラス補正アビリティ マイナス補正アビリティ ライドレシオMAX時の上昇能力 イベント 固有武装装備時ステータス 色変更髪 瞳 入手条件 DLC「武装神姫 Moon Angel」全話DLでショップに追加 性格 基本的にはアーンヴァルMk.2と同一。 カラーリングこそアーンヴァルMk.2のリペイントテンペスタと似ているが、ペイントが違うため別物らしい。 ただし、戦闘前の掛け声(神姫決定時)等、性能以外でも細部が通常のアーンヴァルと異なっている。 また、内部的には別の神姫として扱われているためか、手作りの髪飾りでヘアエクステが消失したり、 ヘッドセンサーラシュヌ、ユニコーン改などを装備すると後頭部の描画が軽くバグったりする。 声優 阿澄佳奈(ひだまりスケッチ:ゆの、WORKING!:種島ぽぷら、他) デザイナー 島田フミカネ(ストライクウィッチーズ、メカ娘等) 素体性能 LP ATK DEF CHA DEX SPD 400 45 42 40 20 4 プラス補正アビリティ 攻撃力+3 小剣、大剣、ランチャー+1 マイナス補正アビリティ 防御力-3 斧、浮遊機雷-1 ライドレシオMAX時の上昇能力 防御力、武器エネルギー回復、スピード イベント アーンヴァルMk.2と同じ 固有武装装備時ステータス 色変更 色は編集者からみた色で、人によって見え方は異なります。 髪 A.淡紫(デフォルト) B.赤 C.青 瞳 A.赤(デフォルト) B.紫 C.黄
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1958.html
鋼の心 ~Eisen Herz~ 第21話:夜明けの翼 「ほほぅ、VR(バーチャル)は初めてなのだが表とあんまし変わんないのな~」 「僕は起動してからの一週間で、50時間は篭ってました」 はしゃぐマヤアのすぐ隣、感情の無い声で呟くセタ坊。 少し目がウツロで、虚空を見詰めている。 「……ますたー、止めて下さい、止めて下さい。……3時間以内に命中率100%にしないと尻尾引っこ抜くとか、マジ外道です」 「んゆ、セタ坊?」 「ぷち達も恐がってます、もう出来ません分りませんゴメンなさい許してください、わふぅ~っ!?」 「……むにに、セタ坊が壊けた」 『ふふ…。懐かしい思い出ね、もうあれから3ヶ月も経ったなんて……』 『いや。普通に神姫虐待でしょ、こういうの』 『雅さんの愛情は祐一君以外にはネジくれてますからねぇ、ははは』 『……ははは。じゃねぇよ』 「ダメです、この的動いてます、なのに外しちゃダメとか無理です、出来ません、嗚呼止めて、一発外すごとに尻尾1ミリ切るとか酷すぎです、そんな、三つ編みとか信じられません、尻尾三つ編みにされたらボクの人生お終いです、一生三つ編みされたミットモナイ尻尾でわふわふ逝ってるだけの駄犬ですか、ゴメンなさい、ヘタレでゴメンなさい、息しててゴメンなさい、存在しててゴメンなさい、ウマレテキテゴメンなさい……」 しゃがみ込んでぶつぶつ呟くセタに、さすがに浅葱も顔を顰める。 『……雅、アンタ本気で犯罪よ、こういうの……』 『愛の鞭よ』 『死をも厭わない鞭に、愛の名を関するのは如何なものかと……』 『ほ、ほら。獅子は我が子を千尋の谷に叩き落すって言うじゃない、そういうものよ。……多分』 『……多分、ってあんたね……』 『千尋の谷に突き落とした挙句に、上から煮えたぎった油を注ぎこむような厳しさですねぇ……』 「あー、よく分からんが―――」 人間同士の会話に加わるマヤア。 「―――要するに、セタ坊は雅んにメチャクチャ愛されてると?」 『よし、バカネコ良いこと言った!!』 「何処をどう聞けばそういう結論になるんですか~!?」 自閉症モードに移行しつつあったセタ坊は、マヤアの一言を機に図らずも復活を遂げた。 「え~っと、皆さんそろそろ宜しいですかぁ~?」 マヤアとセタの間に、デフォルメされたフォートブラッグが出現する。 「おおー、デルタちん。何時もよりも少しちっこくなったか?」 「……この端末CGは極小サイズだと思うのですが……」 「まぁ、そんな小さな事はどうでも良い―――」 『誰が上手い事言えと……』 「―――そんな事より敵は何処だ?」 「もうじき出現します」 『今、そちらに転送しました。すぐに現れますよ、戦闘準備を!!』 村上の声と共に、VRフィールドに歪みが生じてゆく。 「……所で。今更なんですが、『敵』って何なんですか? コンピュータウイルスとか?」 『いえ、このパターンは恐らく……』 「多分、武装神姫じゃん? データだけ転送してきたんじゃねーの?」 マヤアの予測が正解であることは、その次の瞬間に証明された。 『やはり、神姫……。それに、この形状は……』 VR空間をモニターする画面に映る姿はまぎれも無く武装神姫のそれ。 そして、機種不明でありながらも、ある意味雅たちにとっては馴染みの深い黒衣。 『……天海の幽霊……。土方真紀の武装神姫ですか……』 双刀と翼。仮面と黒衣を身に纏い、漆黒の神姫が降り立った。 ◆ 「……とりあえず、分った事が三つある」 「聞きましょう」 トドメは何時でも刺せる。 それ故に焔星はアイゼンの舌戦に付き合うことにした。 「……まずはお前の弱点……」 「……」 アイゼンが指差すのは、焔星に撫でられている二機のぷち。 「……そのぷち達は、性能の代償に稼働時間が弱点。……どちらも数分程度で活動限界になるでしょう?」 「そうでしょうか。……既にこの子達が参戦して10分は経っていると思いますが?」 焔星の指摘にアイゼンは頷く。 「……そう、だから補給が必要」 「そんな暇が、何時あったと?」 「……今」 言い切ったアイゼンの指先に、ぷちを撫でる焔星の手。 「……そうやって触る事で、お前はぷちに補給をしている……」 『どんな神姫だって、クレイドルとの接触で給電を受けるんだ。……その逆に、接触で電力を送るのは造作も無い事』 「なぜ、……そう思ったのですか?」 「……時々戦闘を中断してぷちを撫でてたし、さっきは後ろの砲撃型をわざわざ前線に出してまでボードアタックをしてきた。……そんなに効果的でも無い攻撃だったのに……」 『……つまり、あのボードアタックには攻撃以外の何か別の目的があったと言う事になる。……例えば、補給とか……』 「……ふむ」 『……そう考えればそのぷちの性能にも納得がいく。それだけの装備を運用するのにも拘らず、ジェネレーターを搭載せずにバッテリー駆動だけで稼動させていた。……だから、それだけの性能を詰め込めるわけだ』 「……なるほど、お見事です。……では、二つ目をお聞きしましょう」 「……お前の奥の手。……出し惜しみなんかしないで、さっさと“真鬼王”を出せば良い」 「……………………」 流石に絶句する焔星。 装備構成だけで奥の手まで暴かれるとは予測していなかった。 「見抜いたのは流石ですが……、今の貴女を倒すのに、わざわざ切り札を切る必要があると思いますか?」 「……それじゃあ、三つ目。……“真鬼王”を使っても、使わなくても、この勝負は私の勝ち、だ!!」 言って横跳びに距離を離すアイゼン。 同時にハンドガンの連射が焔星を襲うが、彼女はそれを難なくシールドで弾く。 「それが最後の武器ですか。……それこそ豆鉄砲と言うもの、私には通用しない!!」 反撃のプロトン砲は、アイゼンのハンドガンとは比べ物にもならない威力を持つ。 しかし、アイゼンもそれは承知。打ち合いを早々に切り上げ、回避に徹して距離を取る。 「逃す訳無いでしょう!?」 「……もちろん」 アイゼンは逃げ込むようにビル街へと移動する。 目的は焔星のセンサーに死角を作ること。 追われているアイゼン自身がそこに逃げ込むのは不可能かもしれないが、ノーマークのサポートメカがそこを通って接近する事ならば容易い。 「ちょこまかと逃げるなど、らしくない戦法ですね。……チーグルを失った時に貴女の敗北は決まったのです。大人しく負けを認めなさい!!」 「……そうでもない。……間に合った」 「?」 訝しむ焔星には、ビルの影から低空飛行でアイゼンに近付くそれが見えていない。 「……フランカー!!」 「ちっ!!」 猶予がないと気付いた焔星がアイゼンに向けプロトン砲を叩き込む。 閃光と轟音。 そして衝撃波。 この距離ならば、外した所で至近着弾は免れない。 今のアイゼンの機動性では、爆発範囲からは逃げ切れまい。 (……これで終わりですか。少々呆気無いような気もしますが……) そして、吹き込む疾風が爆風吹き散らす。 「―――!? 何!?」 爆煙が晴れ、プロトン砲の着弾痕が露になるが、その周囲の何処にも倒れたアイゼンの姿は無い。 「撃墜カウントも入っていない!?」 それはつまり、未だアイゼンが健在である証左。 「しかし、何処へ消えた!? 一番近いビルでも走って逃げ込むには時間が足りない筈なのに!?」 「……上」 「―――!?」 真上からした声に顔を向ける焔星。 そこに、吹き込んできた疾風の源。鳥に乗って空を舞うアイゼンが居た。 ◆ 「……」 声も無くたたずむセタ。 マヤアと組んでの2対1の戦闘ではあるが、セタに出来るのはただ見守る事だけだった。 セタには手が出せぬほどに、マヤアも黒衣の幽霊も速い。 打ち込んだ吠莱を魔弾で操り、必中を狙った直後。砲弾そのものを両断し、幽霊はマヤアとの高速打撃戦に突入した。 双方両手に刃を持ち、間断の間も無く打ち付け合う。 隙を狙って蹴りの応酬が行われ、突きと払いは一動作になって相手を追い詰める。 しかし、両者の力はほぼ互角。 目まぐるしく位置を変え、左右と上下を入れ替えながら剣戟の音を響かせた。 「ネコネコネコネコネコッ!!」 マヤアの振るったブレードを幽霊が刃で受け流し、その動作がそのままマヤアの首を狙う一撃に切り替わる。 マヤアが蹴りで肘を狙い、その一撃の阻止を試みれば、幽霊はもう一方の刃でマヤアの脚そのものを狙う。 レールガンがその刃と交錯する軌道に打ち出され、幽霊はマヤアを蹴って距離を僅かに離して仕切りなおし。 このような刹那の攻防が数秒程度の間に10度以上繰り返され、その位置は数十メートルの単位で瞬時に移動する。 飛び交う銃弾すらももどかしい高速戦闘において、最早セタの出る幕は何処にも無い。 「……こ、これ程とは……」 「うん、すごいよね幽霊……」 「……むしろ、マヤアさんに驚きなのですよ。……強いとは思っていましたが、これ程までとは……」 デルタのセリフ、5秒強の間に響いた剣戟は22回。 これ程の反応速度と、それを実行に移せるスピード。 手の届く範囲に入ってしまえばセタ如きでは話にもなるまい。 かと言って、精密砲撃だろうが誘導砲撃だろうが、まともに当たるとも思えない。 神姫としての実力が、ケタどころか次元単位で違っている。 そして、そんなマヤアと互角に渡り合う以上、幽霊の実力もそういうレベル、と言う事になる。 「……なるほど、誰も勝てない訳ですよ……」 デルタの声を、剣戟が上塗りしてゆく。 もはや、する事も見出せず、セタとデルタはただその戦いを見守るだけだった。 ◆ 「プレステイル!? ……そういう事か」 武装を失った筈のアイゼンの自信。 それが、もう一つ装備を持ち込んでいた事に由来するものだと、ようやく焔星も気付く。 「しかし、大勢は既に決しています!! ここで追加戦力など無意味にも程がある!!」 「……そうでもない。……プロトン砲の特性は、対空射撃に不向き」 「……っ」 確かに、着弾して爆発するエネルギー弾を撃ち出す以上、敵以外に接触物の無い対空射撃において、プロトン砲は直撃以外完全に無駄弾になる。 (光阴の速度では追いつけないし、闇阳の対空射撃だけでは捉えきれない……。) 先ほどまでのパワー重視の戦闘スタイルとは一転し、高い回避力での撹乱に入ったアイゼンは、ぷちの性能だけでは追い詰められない。 元よりぷちとの連携は重量級神姫との戦いに特化した戦法で、このような高機動型の神姫には対応していなかった。 (……その為の“真鬼王”ですが……、さて、それまで読んで居るのかどうか……) 祐一の読みどおり、焔星は確かに真鬼王モードを温存している。 だがしかし、それはアイゼンに対して使う必要が無いのではなく、用途の問題として不適切と判断したからに他ならない。 通常の真鬼王のイメージとは真逆に、焔星の真鬼王モードは高速戦闘に対応する為の形態だったからだ。 (……つまり、今が使い時ですが……) 何となく、祐一の掌で踊っているような錯覚に捕らわれ、焔星は苦笑する。 (……普通ならまず無い、一人の相手との戦いで全ての要素を使用する状況……。……私は彼にハメられて居るのかもしれませんね……) だがそれもよし。 元より主の望んだ戦いだ。 焔星は己が元にぷち達を呼び寄せる。 「……お望みどおり、見せてあげましょう。……真鬼王を!!」 焔星の宣言と共にぷち達がフォーメーションに付く。 分離、変形を経て焔星に組み付き、巨躯を構成するまで僅かに数瞬。 「三体合并……!! 真鬼王・零(ツェンカイワン・レン)!!」 二体のぷちとの合体により、焔星は真鬼王をその身に纏った。 特筆すべきはやや小柄である事のみで、その概要は通常の真鬼王と変わることは無い。 プロトン砲とデスサイズがシェルエットを崩してはいるが、むしろ違いはその内面にこそある。 「―――加速!!」 光阴を浮遊させるための揚力場と、闇阳を飛行させるための推進力。 その双方が焔星の背負ったジェネレーターと直結され、制限を解き放たれる。 焔星の真鬼王=零は、その名の通り一秒にも満たない時間で彼我の距離を“0”にした。 「斩(ツァン)!!」 「…ん」 アイゼンがハンドガンのトリガーを引いたのは、その一瞬だけ前の事である。 結果として焔星は、自ら虚空に放たれた銃弾に当たりに行く形になるが、アイゼンの行動は、焔星の零の性能を正確に予測したからこそ。 逆に言えば、零が動き出してからではアイゼンに反応する術は無い。 『行くぞ、アイゼン。アサルトフォームだ』 「……ん」 短く頷き、改造型のプレステイル=フランカー/フライトフォームを上昇させる。 限界高度に達しこちらも分離、変形を経てアイゼン本体に合体。 零と比しても小柄な人型を形成する。 ベースとなったエウクランテに酷似したシェルエットだが、翼は細く長く、腰の後ろには双発式の斥力場エンジンが唸りを上げ、その身体を宙に留めていた。 「……全システム高速戦闘モードに移行」 ≪Assault form wake up≫ フランカーに組み込まれたサポートAIのインフォメーションが響き、戦闘形態であるアサルトフォームへの移行完了を告げた。 変形に伴い、フライトフォームで中枢を成していたエンジンユニットは背部に回され、アイゼンはそこから小さな基部を一つ分離させ右手に収めると、主である祐一へと問う。 「……マスター、指示を」 『不慣れな高速戦だがやれるね?』 「……ん」 『それじゃあ全力で行くぞ。……斬り捨てろ、アイゼン!!』 「……んっ!! ……アクセラレータ、起動!!」 ≪system“Accelerator”starting up≫ 祐一の指示を受けて、弾かれるように突進するアイゼン。 その速さは、疾風のそれ。 もはや、ストラーフとは思えない速度を以って焔星に迫る。 「……ッ!?」 瞬時に眼前まで近付かれ、勢いに任せた蹴りを浴びる焔星。 間髪居れずに回し蹴りから後ろ回し蹴りへと繋ぎ、零の体躯が大きく吹き飛ぶ。 「速い!?」 驚愕する間もあればこそ、その一瞬で離れた間合いはアイゼンの突進で即座に詰められる。 「―――なッ!!?」 そして青い光の奔流が閃き、手にした大鎌が寸断された。 「ば、……馬鹿な……!?」 ≪“RayBlade”Disposition≫ アイゼンが手にしたモノは光の剣。 他ならぬ、カトレアと同じ超高出力型のレイブレードであった。 ◆ 「……なんと、愚策」 彼女は、それを見て詰まらなそうに呟いた。 ◆ 投刃と衝撃波、狙撃銃とリニアガンの中距離応酬から一転して、両者肉薄しての高速打撃戦。 目まぐるしく位置を変えながらの高速戦闘も終わりが近付いてきたようだ。 マヤアはとっくにライフルを捨ててしまっているし、黒衣の幽霊も新たに投刃を繰り出す気配は無い。 時折、開いた間合いを惜しむように翼からの衝撃波や背部ユニットのリニアガンを打ち合うが、即座に距離は詰まり打撃の応酬に戻る。 互いに消耗が進み、飛び道具が心許なくなってきたのだろう。 「……だからと言って、何が出来る訳でもないのですよ……」 「わふわふ」 戦場の端っこでお茶を啜るデルタと、尻尾のブラッシング(VR空間なので実は無意味)にいそしむセタ坊。 一応今でもマヤアをシステム的にバックアップしているデルタはともかく、セタに到っては本気で何しに来たのやらと言う有様だが、相手がアレでは仕方もあるまい。 「にゃーーーっ!!」 マヤア渾身の一撃が、幽霊の刀一つを途中からへし折った。 「……無為」 折れた刃を投げ捨て、幽霊は残る一刀でマヤアのフォビドゥンブレードを叩き落す。 「ニャ!?」 武装の喪失に伴う戦術パターン切り替えにより生じた微かな隙。 本来であればどんな神姫やオーナーでも無視する程極微の間断ではあるが、事ここに到ってマヤアと幽霊にとっては隙と呼ぶべく数少ない瞬間であった。 「……絶!!」 真横に振るわれた刀。 それが狙いを違わずマヤアの胴を薙ぎ……。 すり抜けた。 「―――!?」 バラバラになって落ちてゆくツガルタイプのアーマー。 と、それらが弾かれたように集結し、ひとつの形状をなしてゆく。 「……レインディア、バスター……」 幽霊の呟きも終わらぬうちに、自由落下から明確に意図された加速で機首を起こして上昇を始める。 「……」 そして、あの一瞬の攻防で上空に逃れていたマヤアを乗せ、突撃を開始した……。 ◆ 近接用のメインウェポンであるデスサイズを失い、焔星は大きく後退して距離を取る。 「……っ、これほどまでに高出力のレーザーブレードだとは……」 恐らくはプレステイルの中枢を成すボレアスユニットから射撃機能をオミットし、ジェネレーターとしての機能に特化させて得た高出力を流用しているのだろうが、分かった所で防ぎ様など無い。 「―――ならば、寄せねば良いだけです!!」 脚部に固定されたハンドガンと肩部のキャノン砲が展開し、アイゼンとの空間に濃密な弾幕を形成する。 「装甲を捨て機動力を取ったのでしょうが、それならば逆に小口径弾一つが致命傷になります!!」 先ほど使用したときにはチーグルの装甲に阻まれ、碌なダメージにはならなかったが、この飛行可能なユニットに同様の防御力があるとは考えられない。 故に、この弾幕を回避してから、レーザーブレードの一撃を狙う為に突進をしてくる筈。 (そこをプロトン砲で打ち落とす) そう考える焔星の元へ、アイゼンはしかし、一直線に突っ込んできた。 「……まさか、この弾幕に耐えられるつもりですか!?」 『元々アイゼンに回避主体の戦法が不向きなのは重々承知』 今までは基本的に、重装甲による防御主体のディフェンスを重視してきたのだ。 それを今更回避力ですべて置き換えられるとは、祐一もアイゼンも思っていない。 故に。 「……バリアの一つ位は用意してある!!」 ≪Hadronic field≫ アイゼンの周囲を覆う、薄い光の球体。 微かに青く発光するそれに阻まれ、弾幕が弾かれてゆく。 「―――ならば、プロトン砲でっ!!」 『怯むな、アイゼン!! シールド集中!!』 「…んっ!!」 砲口から溢れ出した白い光の奔流は、しかし、アイゼンの掌の先に広がるディスク状のバリアに阻まれ四方八方へと逸れてゆく。 「貫けぇーーーっ!!」 「……負けないっ!!」 プロトン砲と斥力場シールドの均衡は数秒続き、途絶えた。 「そんな……。チャージ容量の限界? プロトン砲の全力照射に耐え切るなんて……」 「……言った筈。私はカトレアを倒しに来た。……お前如きに負けてなど居られない」 プロトン砲の閃光が途絶え、幾分濃さを増したシールド越しにアイゼンの姿が見える。 「……これで、終わりだ」 「―――!?」 背部から切り離したエンジンユニットに追加砲身を直結させた『砲撃モード』。 「―――消し飛べ……。『フェルミオン・ブレイカー』!!」 ≪Fermion Breaker≫ 砲口からプロトン砲以上の白光があふれ出すのを、焔星は呆然と眺めていた。 「―――ぁ」 そして。 閃光と轟音に全てを押し流され、焔星の意識は途絶えた。 ◆ ガチャン。と音を立てて、破損した砲身が切り離される。 『勝った、か』 アイゼンのステータスに追加された撃墜数1。 焔星を下した何よりの証拠だが、その実、二人が対カトレア用に取っておいた切り札をここで使用してしまったことは大きい。 限定的とは言えブーゲンビリアのレーザーに近い威力を持つ『フェルミオン・ブレイカー』も使用回数2発の内1発を使ってしまったし。 なによりこちらの切り札が『レイブレード』である事は、最早カトレアには隠しておけないだろう。 元より対四姉妹戦を前提に開発された【フランカー】は、四姉妹の特化能力に対抗できる事を目的としている。 カトレアの『レイブレード』と『バリア』。 アルストロメリアの『機動性』。 ストレリチアの『移動速度』。 そしてブーゲンビリアの『高出力レーザー』。 これらの能力全てに対抗する為に、【フランカー】には変形能力と強力なエンジンから発生する出力を利用したレーザーブレード、バリア、そして陽電子砲が搭載されている。 しかし、土方京子と祐一の技術力の差は明白で、汎用性を落して尚、純粋な性能で及んでいないのが現状だった。 故に、勝機は不意打ちによる短期決戦しか無い訳だが、焔星の登場によりその予定は水泡と帰し……。 『で。今までのバトルロイヤルに居なかった以上……』 祐一が見すえるアイゼンの視点の中央。 ≪Warning!! NeXT enemy Engaging≫ AIの警告が促すその先に……。 『……ここで出てくる訳だな、カトレア……』 ジュビジーの装備で武装したジルダリア。 土方京子の四姉妹が長女。 カトレアが、そこに居た。 ◆ 「……カトレア」 「お久しぶり、と言った方が良いでしょうか?」 「……」 残存神姫は残り5。 未だ脱出した神姫が居ない以上、この五人の中で最初に敗れたものが予選で敗退する事になる。 「貴女は危険だと判断を下し、あのマオチャオ、アーンヴァルと共に最優先の警戒対象としていたのですが―――」 言葉を切り、アイゼンを見下ろすカトレア。 「―――どうやら見込み違いだったようですね……」 「……っ!!」 カトレアの右手から伸びる赤い光剣。 「いくら私達のマネをしても、その程度の技術力で神姫の開発に携わったマスターを超えることなど不可能―――」 最早アイゼンを脅威とは見ないしていないのか、無造作に歩を進めてくる。 「―――ましてや。……その様に無理やり詰め込まれた装備ではバランスなど望むべくも無い」 互いの間合いギリギリでカトレアは足を止めた。 「それで私に勝つつもりだったとは、笑い話にもなりません」 対峙するアイゼンは、未だ光剣を発振させては居ない。 出力で劣るだけでなく、稼働時間に天地の隔たりがあるからだ。 今から展開しておけるほど、アイゼンのレーザーブレードには稼働時間の余裕が無い。 「……実際、ストラーフの装備の方がまだ勝ち目があったと思いますよ? ……そのような私に対して勝る部分が一つも無い装備で、本気で私に挑むつもりなのですか……?」 光剣を構え、体勢を落すカトレア。 同様に、アイゼンもまた迎撃の姿勢を取る。 「……正直、失望しました。……貴女とはここで終わりにしましょう」 真紅の閃光。 高速で振り下ろされた光剣を辛うじて受け止めるアイゼン。 レイブレード同士が干渉し合い、閃光と耳障りなノイズ音を撒き散らす。 「……何も、対策が無いわけじゃない!!」 ≪“RayBlade”Re-disposition≫ 膠着状態を打破するべく、アイゼンがもう一本レイブレードを取り出し起動。 二刀を交差させカトレアを押し返す。 「ふんっ、……それが対策と言うのなら、下らないにも程があります」 カトレアは何もしない。 ただ、そのまま力ずくでレイブレードを押し付けてくるだけだ。 「……っ!?」 しかし、ただそれだけの事でアイゼンのレイブレードは二本とも干渉波で機能不全を起こして途絶えがちになる。 『……大元の出力が違いすぎる……!! やはりこれだけでは無理か……』 「機動性や速度でもアルストロメリアやストレリチアに劣るのでしょう? 先ほどの火力もブーゲンビリアとは比べるべくも無い!!」 「…っ!!」 「ましてや、バリアやレイブレードの性能で私に挑むとは、愚かにも程がある!!」 膠着状態を維持するのに集中しているアイゼンの無防備な腹部をカトレアが大きく蹴り上げた。 「…かはっ!?」 蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられたアイゼンに、悠然とカトレアが詰め寄ってゆく。 「……貴女なら、或いはマスターを止められるかとも思ったけれど……」 「くっ…、けふっ…!」 「……いえ。……元より望む事では、無いのでしたね……」 呟き、カトレアは光剣の切っ先をアイゼンに突きつける。 「……終わりです」 そして。 ◆ VR空間での決着が付いたのは、第四バトルロイヤルが終わるのとほぼ同時だった。 データ分解を起こし、消え往く幽霊の残滓。 仮面が消え、本体が消える一瞬のラグの中に、マヤアは幽霊の瞳を見た。 「……?」 そして、そのまま物言わず消滅する幽霊。 「……なあ、浅葱。あいつ死んだのか?」 『どうなの、雅?』 『どうなの、村上君?』 浅葱、雅を通じて村上まで上訴された質問に彼は静かに答える。 『いえ、コピーされた分身を倒しただけでしょう。神姫本体を如何にかしなければこの事件は終わりません』 『……そっか、ハッキングしてきたのが土方真紀の神姫だって事は、やっぱ黒幕は土方真紀で確定か……』 確証を経て、目的ははっきりとした。 「……あとは。土方京子からウイルスのサーバー本体の位置を聞き出すだけですね……」 『ええ、予選を突破していれば控え室で会えるわ』 「素直に教えてくれるでしょうか?」 『教えてくれないのなら、力ずくでも聞き出すまでよ』 冷徹に言い放ち、雅は視線を移す。 「……あとは、アイゼンさんが勝てるかどうかですか?」 『ま、それが一番の問題かな……』 雅の表情は硬く、中央制御室にあるモニターの一つ。 第四バトルロイヤルを映し出しているモニターを見据えていた。 ◆ 第四バトルロイヤル終了。 残機数4。 これで、本戦に出場する16名の武装神姫が出揃った事になる。 「……マスター、ゴメン……」 「まぁ、いいさ。次は勝とう」 ポッドから出てきたアイゼンを労う祐一。 カトレアとの戦闘は完全にアイゼンの敗北だった。 「祐一!!」 「祐一」 美空とリーナが駆け寄ってくる。 「ああ、二人とも……」 「祐一、その……、―――!?」 「どうしたの、二人とも」 美空とリーナのみならず、フェータまでもが絶句し祐一を見ていた。 いや、正確にはその背後に立つ女、を。 「久しいな、少年」 「京子さん?」 振り返る祐一の背後に、コートを着込んだ眼帯の女。土方京子が立っていた。 「……惨敗だったじゃないか。……私を止めるのだろう? このままでは、叶わぬぞ……」 「…………………はい」 祐一は静かに頷く。 「……でも、次は必ず勝ちます。……その為の【フランカー】ですから」 「……そうか、ならば何も言わん。……やって見せろ」 無言で頷き、祐一は意を返す。 「京子さん!!」 「なんだ?」 「本戦で、もしもアイゼンが勝ったら……」 「……勝ったら?」 「その時は、俺の言う事を一つだけ聞いて下さい……」 「……ふむ……」 興味がありそうでなさそうな、そんな微妙な表情を浮かべ、京子は微笑んだ。 「……よかろう。では私が勝ったらお前は私の言う事を聞いてもらう。……いいな?」 「はい」 その返事を聞き届け、京子は微笑を浮かべて歩み去る。 レライナを除く五人は、黙ってそれを見送った。 「で、どうするのよ?」 「……次は勝つさ……」 不安そうに尋ねる美空に、祐一は静かに答えた。 「……次はもう、負けられない……」 先のバトルロイヤル。 アイゼンに止めが刺されるより早く、他所で決着が付き神姫の残存数が4になった。 その時点で戦闘が終了した為、アイゼンも本戦に進出できたものの、結果としてみればカトレアには歯が立たなかった事になる。 「……もう、負けられないんだ……」 「ん」 祐一の肩の上で、アイゼンが応えて頷いた。 第22話:THE SECRET WISHにつづく 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る ど、ドラクエ5クリア……。 20時間位? 普通のRPGに掛かる時間ってこのぐらいだよね? と思う今日この頃です。 Aボタンがへこみっぱなしでなければもっとストレス無く遊べたでしょうに……。 ああ、ヨメはフローラで。 性能重視の人ですから、私。 閑話休題。 焔星の元ネタはファイブスターのマシンメサイア。 …と見せかけて、実はAC4fAで人から貰ったネクストの設計図(そっちの元ネタが多分FSS)。 回避最優先の軽量級にコジマキャノンとドラスレという無謀な装備がお気に入りだったり……。 まぁ、ソブレロに雷電グレ積んだグレ単ネクスト作った私が、無謀とか言えたもんじゃありませんが……。 残るはP4。 今回ペルソナに鈴鹿御前と信長が出るらしい……。 やべぇ、超楽しみ……。 ALCでした~。 -
https://w.atwiki.jp/busou_bm2/pages/140.html
攻略本「武装神姫 BATTLE MASTERS Mk.2 ザ・コンプリートガイド」の簡易レビュー、間違い・誤植・情報抜けの報告をするページです。 ※間違い・誤植・情報抜けの情報には不足があります。新情報がありましたら「コメント」へ情報提供をお願いします。 簡易レビュー 良い点 ライバルの登場条件、ボスキャラクターの攻略などが詳しく掲載されている。 ドロップする景品とその確率、ミミック・強化ミミックの入荷率なども掲載されている。(個人で検証できない攻略本のみを根拠としたデータのwikiへの掲載は著作物の侵害にあたるため厳禁) 特典プロダクトコード「ギュリーノス・ダーク」付属。 悪い点 攻略本単体としては比較的高額の2,300円。 カテゴリ別の武装データの掲載順がゲームと大きく異なり、武装を探し辛い。ゲーム:平仮名、片仮名、漢字、英数字の順。ヴ=は行。(SORTをNAMEにした場合) 攻略本:英数字、五十音の順。平仮名・片仮名・漢字の区別無し。ヴ=あ行。 ゲーム内での確認の可否を問わず、敵神姫の装備が掲載されていない。 後述する間違い・誤植・情報抜けが散見される。 間違い・誤植・情報抜け エウクランテの固有RA入手時期が間違っている。 レーザーグレネード+VCのCOSTが169とあるが実際は195。 「+GC」「+CG」を混同する、などの誤植が全体的にある。 武装入手条件の情報抜け。 入手武装 会場・大会 マスター スキンファクシ+CL ビットブル火器属性タッグ 島津佳美 OSY010 Aガード+MK ハンマー ライフル杯 麻呂
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/406.html
ヒュゥン……。 軽やかな作動音と共に、私の意識は覚醒した。 機体各所の動作チェックの終了を受けて、ゆっくりと視覚素子を起動させる。 目の前にあるのは、人間の顔。 性別は女性。まだ少女と呼んだ方がいいのか、幼さの抜け切らないあどけない表情で、こちらをにこにこと見つめている。 「おはよう。気分はいかが?」 「あなたは……マスターですか?」 いきなりの問いに少女は面食らったのか、軽く目を見開いた。 「あの……」 けれど、マスターの認証は私達神姫にとって一番大事なこと。マスターを定めなければ、私はどう振る舞えばいいのかさえ分からないのだから。 「ふふ、せっかちなコね?」 艶やかな長い黒髪を揺らし、少女はくすりと笑う。 「……申し訳ありません。慣れていないもので」 「いいわ。考えたら、あたしも初めてだもの」 少女の手が私の方へ伸びてくる。色白の細い指が、私の頭をそっと撫でてくれた。 「あ……」 そのまま背中に手を回され、ひょいとお尻からすくい上げられてしまう。 バランスを取り戻すよりも早く、少女の細い指が私の足とお尻を包み込み、私を支える椅子となってくれた。 「私は戸田静香。あなたのマスターよ」 「戸田静香様……マスターと認証しました」 登録完了。 これで、最初にすべきことは終わった。 「マスターっていうのも堅苦しいわね。静香でいいわ……」 「……?」 いきなり呼ばれた固有名詞に、私は首を傾げる。 「あなたの名前。……気に入らない?」 「いえ、いきなりだったもので……」 そういえば、私自身の名前のことなど思いつきもしなかった。初期ロットとは言え、その手のバグは無いはずなのに……。 「我ながら、ちょっとシンプルすぎるかな、とも思ったんだけどね。名前なんて、シンプルなくらいがちょうど良いのよ」 話し方こそ大人びているが、仕草はどちらかといえば子供っぽい人だ。 「マスタ……静香も相当せっかちですね」 「似たもの同士、ってこと?」 「……はい」 「ま、いいわ。似たもの同士なら、仲良くやれるはずよね。きっと」 「はい!」 笑顔の静香は私を手に乗せたまま立ち上がり……。 「それじゃ……」 魔女っ子神姫 マジカル☆アーンヴァル ~ドキドキハウリン外伝~ その5 テンポ良くキーボードを叩く音が、部屋の中に響いている。ブライドタッチほど早くはないけれど、指一本よりははるかに早い、そんな速さで。 かちゃん。 リターンキーを強く叩く音で連なるタイプ音はようやく止まり、ボクは携帯ゲーム機から視線を上げた。 もちろんキーボードを叩いていたのはボクじゃない。 ジルだ。 両足でエンターキーへの着地をキメたまま、得意げにこちらへ振り返る。 「なぁ、十貴」 「何?」 ジルがPCの使い方を覚えたのはつい最近のことだ。最初は両手でトラックボール……ジルにPC用のマウスは大きすぎるから、ジル用に買ってきたもの……を転がすのが精一杯だったけど、キーボードをステップを踏む事でタイピングする方法を覚えてからは、ネットであちこちの掲示板なんかまで見るようになったらしい。 「それ、おもしれえの?」 ボクがやってる携帯ゲーム機を指差して、そう聞いてきた。 「まあまあかなー」 今やってるのは、もう40年近くも続いてるモンスターバトルゲームのシリーズ最新作。今は黄色の電気ハリネズミが、超高速でフィールドを突っ走りながら電撃を放っている。 「っていうかさ。そんなバーチャルな育成ゲームじゃなくて、もっとリアルな育成ゲームしてみたくねえ?」 「……はぁ?」 そもそも、育成ゲーム自体がバーチャルなゲームなんじゃ……。 「例えば、神姫とかー」 神姫も、機械の女の子を育てるって意味じゃ、育成の分野に入る……のかな? 「……ジルを育成するの?」 でも、ジルを見てる限り、神姫に育成要素があるとはとても思えな……。 「あぁ? 誰を育成するって?」 「……ごめん」 ほらね。どう見ても、神姫に育成ゲーム要素はないでしょ。 「あたしが十貴を育成してんだろが」 …………。 「……はいはい」 ボクは話を打ち切って、携帯ゲーム機に視線を落とす。 あ。メカ武装をまとったオレンジのティラノサウルスが出て来た。えっと、こいつ、まだ仲間にしてなかったっけ……? 「なぁ、十貴ぃ」 「……何が言いたいの、ジル」 ジルがこういう持って回った言い方をするときは、大抵何かある時だ。今日は何だろう。 だいたい予想はつくけどさ。 「なぁ、十貴。ウチは神姫買わねえの?」 やっぱり。 なにせ今日は、神姫の発売日なわけだしね。 「うちにそんなお金あるわけ無いでしょ……」 ネットで見た限り、神姫は一体でちょっとしたPC並みの値段がするらしい。スペックだけ見れば相応どころかむしろ割安だとは思うけど、中学生のボクにそんなお金があるはず無いし……父さんが1/12のモータライズボトムズ相手に激しい多々買いをを繰り広げて大変な事になってる我が家にだって、そんな余裕があるはずもない。 ちなみにジルが使ってるボクのPCも、父さんが仕事で使ってたヤツのお下がりだ。 「そもそも、神姫の複数買いって出来るの?」 「ほらー。ここの人達だって、黒子と白子げとー、とか書いてるじゃんか」 ジルってば、何処のページを見てるかと思えば……。まったくもう。 「何? もうそんなスレ立ってるんだ……」 マウスでスクロールを掛けて、ざっと斜め読みしてみる。 「昨日からフラゲ組がハァハァしてるよ。どこも在庫切れになってるみたいだけど」 少し前に、テストバトル参加者からの情報リークで(ボクじゃないよ)アーンヴァルの空中戦が圧倒的優勢って話になってたから……アーンヴァルの方が沢山売れてるのかなとも思ったけど、ここを見てる限りじゃどっちも同じくらい売れてるみたいだ。 「物売るってレベルじゃねえぞって……何だかなぁ」 三十年くらい前に流行語大賞もらった台詞だっけ? たまに父さんが口走ってるけど。 「だから十貴。うちにも一人買ってこようよー。妹が欲しいよー」 「そんなの、父さんに言いなよ」 っていうか、さっき在庫切れって言ったばっかりじゃない。今頃探しに行ったって、どこも売り切れだと思うよ。 「司令はボトムズに掛かりっきりだから相手にしてくれないんだよー」 「じゃあ無理。諦めなよ」 趣味に全力投球してる時の父さんは、家が火事になってもきっと気付かない。玩具ライターだから仕事に集中するのは良いことなんだけど、端から見てると黙々と遊んでるようにしか見えないのが最大の欠点だったりする。 「なんだよ。妹欲しいなー。妹ー」 ジルがそんなことをブツブツ言ってると、部屋の窓が唐突に開け放たれた。 「十貴ーっ!」 入ってきたのは、いつも通りに静姉だった。 「ん、どうしたの? 静姉」 何だか物凄く上機嫌だ。ボクで着せ替え人形ごっこする時でも、ここまで機嫌は良くない気がする。 何だろう。 すごく、嫌な予感が……。 「ほら、おいで!」 静姉はボクの不安なんか知らんぷりで、外に向かって声なんか掛けている。 誰だろう。友達を連れてくるなら、普通に玄関から連れてくると…… 「あーっ!」 思いかけたボクの思考を、ジルの叫び声が一気に吹っ飛ばした。 「あ! 買ってきたんだ!」 静姉に連れられて入ってきたのは、真っ白な武装神姫だった。小さなレースをあしらった可愛らしいワンピースを着て、ふよふよと頼りなげに浮かんでる飛行タイプの機体は、天使型のアーンヴァルだ。 起動したばかりで、まだ見るもの全てが珍しいんだろう。ボクの部屋に入った後も、きょろきょろを辺りを見回している。 「日暮さんとこに入荷情報があったから、お姉ちゃんと昨日の晩から並んだわよー。ほら、挨拶して!」 徹夜明けで底抜けにハイテンションな静姉の言葉に、アーンヴァルはぺこりと頭を下げた。 「えっと、アーンヴァルの花姫って言います。どうぞ、よろしくお願いします」 ちょっと舌っ足らずな喋り方が、随分と可愛らしい。この間の大会で見たアーンヴァルは、みんなもっと凛とした、お姉さんっぽい感じだったけど。 「ボクは鋼月十貴。よろしくね、花姫」 「……十貴さま?」 うわぁ。 普通の神姫は名前にさま、なんて付けるんだ。 「ふ、普通に十貴でいいよ。それと、こっちはうちのジル。仲良くしてあげて」 そうは言ったけど……大丈夫かな、ジルのやつ。この間のテストバトルでアーンヴァルにボロ負けした事、気にしてなきゃ良いけど。 花姫は気が弱そうだし、いきなりガン付けて泣かせるような事だけはしないで欲しい。 「よろしくね、ジル」 「ジルさん、っておっしゃるんですか?」 同じ神姫相手にもさん付け……。 なんか花姫見てると、今までジルで培ってきた神姫に対しての感覚が、かなりズレてるような気がしてくる。 「そうだよ。あたしのことは、お姉様って呼びな!」 ありゃ。怒るどころか、偉そうに胸なんか張ってるよ。これなら花姫を泣かせるようなこともしないっぽいな。 ……でもいくら何でも、お姉様はどうだろう。 「ちょっとジル?」 「……ダメ?」 さすがの静姉も、ジルのお姉様発言に苦笑気味だ。 「お姉ちゃん、なら許してあげる」 ……あ。それならいいんだ。 「じゃそれでひとつっ!」 「はい、お姉ちゃん」 「う……」 そう呼ばれた瞬間、ジルの動きがぴたりと止まった。 「な、なあ、静香。このコ、あたしがもらっちゃダメ?」 おいおいおいおいおい。 「ダメよー。花姫はウチの子だもん。ね、花姫ー?」 「ねー?」 満面の笑みで花姫の顔を覗き込んだ静姉にオウム返しで答えながら、花姫も静香を真似して首を傾けてる。 「花姫は妹なんだから、ジルもヒドいことしちゃダメだよ?」 まあ、さっきの様子じゃ、しそうにないけど。 「当たり前だろ! バトルと花姫は別扱いだよ。なー?」 「なー?」 今度はジルの真似っこだ。 ああもう、可愛いなぁ。 花姫を中心にみんなで遊んで、あっという間に日が暮れて。 「それじゃ、また来るわねー」 静姉の帰りは来た時と同じ窓からだ。傍らにはふわふわと浮かんでる花姫がいる。 飛び方の練習も少ししたから、来た時ほど危なっかしい感じはしない。 「花姫ー。帰ったら、あなたの新しいお洋服作ってあげるからねー」 「ほんとですかっ!」 花姫は神姫というその名の通り、本当に女の子らしい性格の子だった。殊に静香お手製のワンピースがお気に入りみたいで、ジルが飛行ユニットを貸して欲しいと聞いた時も、「ユニットはいいけど服はダメです」って言うほどだったりする。 「だから、どんなのがいいか一緒に決めようねー」 静姉も自分が作った服を喜んで着てくれる子がいるのが嬉しいらしくて、今日は本当に、ほんっとーーーに珍しく、ボクに服の話題を振ってくる事が無かった。 「それじゃ、お休み。静姉」 「じゃねー」 窓が閉まって、静姉が瓦の上を歩いていく音が少しして。 静姉が自分の部屋に入ってしまえば、賑やかだったボクの部屋もしんと静かになる。 「なぁ、十貴」 そんな中でぽつりと呟いたのは、ジルだった。 「花姫、可愛かったなぁ」 「そうだねぇ」 まあ、今日いちばん花姫を可愛いって言ってたのは、当のジルだった気がするけど。 「あのさ」 可愛くてたまらない妹分が帰ってしまって寂しいのか、ジルに何となく元気がない。 「んー?」 ボクは出しっぱなしになっていたゲーム機を片付けながら、ジルの言葉に返事を投げる。 「テストが終わって、あたしが正式に十貴のモノになったら……さ」 「うん?」 バトルサービスの本サービスが年明けから年度末に延びたこともあって、ジル達のモニター期間は最初の予定からもう少し長くなっていた。 バトルサービスがサービスインしてから半年。 それが過ぎればモニターは終わり、ジルは正式にボクの神姫になる。 二人の関係は何も変わらないだろうけど、心情的にはちょっと良い気分だ。 「あたしのCSC抜いて、花姫の使ってるセットに差し替えてもいいぜ?」 ぽつりと呟いたその言葉に、ボクは片付けようとしていた筐体を取り落としそうになった。 「あたしだって、自分がガサツな事くらい分かってんだよ。けど、あんな可愛い子に生まれ変われるんなら……」 ボクはため息を一つ吐いて、筐体を棚に片付ける。 「……バカ言わないの」 神姫のコアユニットと素体、そしてCSCは不可分だ。三つのパーツにジルの個性は等しく宿る。 即ち、三つが揃ってこそのジル。どれが欠けても、ジルはジルでなくなってしまう。 「ジルはジルだよ。そんな事するくらいなら、もう一体神姫買ってくるって」 花姫は確かに可愛いけど、ジルと引き換えに手に入れるものじゃ、決してない。 迎えるなら、ボクとジル、二人でないと。 「金もないのに?」 そんなことは分かってる。 「高校生になれば、バイトも始められるから」 武装神姫のロードマップに照らし合わせれば、ボクが高校生になった頃には、第二期モデルのハウリンやマオチャオ、ヴァッフェバニーも発売になっているはず。 高校なんてまだまだ先の話だけど……ジルの妹の選択肢が増えるって意味じゃ、悪いことだけじゃないと思う。 「なんだよ。学生のウチから神姫破産かぁ?」 皮肉めいた調子で、へらりと笑う。 言葉の意味は分からなかったけど、よかった、いつものジルの喋り方だ。 「引き込んどいて、良く言うよ」 まあ、それも悪くない。 「……十貴」 「何?」 「あんたが主人で、良かったよ」 いつになく本気なジルの言葉。 「ボクもジルが神姫で……良かったよ」 それはあまりに突然で、驚いたボクは言葉を詰まらせる。 「……ンだぁ? 今の間は」 けど、それがマズかった。 「いや、それは……っ!」 「ホントは花姫みたいな可愛い子が良かったなーとか思ってるんじゃねえだろうな! あたしみたいに尻に敷いたりしないだろうしさ」 ボクの肩にひょいと飛び乗り、耳元でがなり立てる。 「そんな、思ってないって! いたたたたた!」 って、耳ひっぱらないで、耳ーっ! 「正直に言え。今なら思ってても許してやる。あたしゃ本日限定で、すっげー心が広いんだ。な?」 いや、ジル、心が広い人は耳とか髪とかひっぱらないと思うよって痛いってば。いーたーいーーー! 「……ごめん。花姫みたいな神姫なら、もう一体欲しいなとは思ってた」 「オーケー。そいつはあたしも同感だ」 ぱっと手を離し、ジルはボクの肩で満足そうに笑ってる。もう、乱暴なんだから。 まあ、ずっと塞ぎ込んでるよりはマシか。 「でも、ボクとジルが一緒になれたのも何かの縁だよ。ジルが思ってるような事は、するつもりないから」 それだけは本当だった。 ジルのCSCを抜いて花姫にしようだなんて、思いつきもしなかったんだから。 「頼むぜ。これからもヨロシクな、マイマスター」 「うん。今後ともよろしく、ジル」 その日、ボクは本当の意味でジルにマスターって認められたんだけど……。 それに気付くのは、もう少し経ってからになる。 戻る/トップ/続く
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/460.html
戻る TOPへ 次へ 一回戦目はシルヴィアの粘り勝ちだった。 一撃離脱を繰り返すシルヴィアと、数少ない反撃のチャンスを物にする敵マオチャオ。時間経過と共に両者に蓄積されるダメージ。三度目の格闘戦にもつれ込んだ際に功を焦った猫型が迂闊なステップを踏み、そこをマグネティックランチャーで迎撃。接近の間合いで放たれた高速貫通弾は猫型の装甲を貫いた。 敵は一回戦目から持久戦に陥った事により焦れていたのだろう。だがおれ達のテンションは最高にクールだった。御影キョウジと《ミラー・オブ・オーデアル》マスターミラーを倒す。この目標を掲げるシルヴィアは焦りが生じやすい持久戦の中でも勝利を見逃す事は無かった。 二回戦目までまだ間がある。控え室に戻り、備え付けの自販機でホットココアを購入。シルヴィアには神姫サイズのアップルティーを買ってやる。コーヒーブレイク。二人とも珈琲飲んでないけど。 神姫サイズの紙コップにアップルティーが注がれていく様を見て、おれはまた昨日の出来事を思い返していた。 ツガル戦術論 鏡の試練 後編5 エルゴのバトルフロア。バトル観戦の途中でブレイクタイム。休憩スペースに備え付けられた自販機を認める。マスターミラーに飲食出来るのか確認し、ミラーの好みに合わせてドリンクを選ぶつもりだったが、その必要は無いと彼女に言われた。 飲食が出来る神姫と一緒に食事する際は、マスターの分量を神姫に分けてあげるのが普通だ。武装神姫と言うバトルサービスが市民権を得ているとは言え、神姫と食事をするユーザーが一般的に多いわけではない。神姫用フードサービスなどは見たことは無いし、もし現実的な状況になったとしてもコスト的な観点から普及はまだまだ難しいだろう。かと言ってマスターが神姫のために人間一人前を注文しては無駄な出費が多い。そんな重箱の隅に転がる要望にいち早く応えたのが通称「ちっちゃい物研」。彼らは神姫サイズまで小型化された自動販売機の製作に着手したのだ。自動販売機の概念発祥は紀元前の古代エジプトまでさかのぼり、国内に於けるメカトロニクスの元祖は二十世紀初頭に完成されていたが、新世紀から四半世紀を余裕で過ぎた今日のテクノロジーを以ってしても紙コップ自販機の、あの『飲み物が流れた後に紙コップが降ってくる』悲劇は健在だった。 神姫のドリンクを缶で提供するにはあまりに大掛かりな投資になる。紙コップ式の選択は必然と言えた。だが前述にある悲劇の存在が技術者達の行く手を阻む。神姫達にあの悲劇を味あわせてなるものか! かくして男達は立ち上がる。だが製作は難航した。突貫作業でこさえた試作一号はとても満足の行く精度は出なかった。そして失敗の連続。いたずらに過ぎて行く時間。無力感と絶望感が男達に圧し掛かる。 男達の神姫は彼らを思いやった。 「マスター、もういいんです。私はマスターの好きな飲み物は全部、大好きですよ」 「砂糖やミルクが入ってないコーヒーでも、私、飲めますから!」 「頼れる神姫にはブラックが似合うんです! …あれ? おかしい… な」 「やっぱり… まだ… 飲めませんでした。私、まだまだ、頼れる神姫じゃないみたい… です」 男達は再び立ち上がった。何度も試行錯誤を繰り返し幾度も挫折を味わい数々の困難と逆境が彼らを襲う。つらく苦しい長期戦となった。だが男達は一人として諦めたりはしなかった。何故なら男達の目は常に未来を見据えていたからだ! そしてついに神姫サイズの紙コップ自動販売機の先行量産型が完成した。 数少ない先行量産型は大規模神姫センターに先行モニターとして設置され、そのうちの一台は製作スタッフの熱意あるプッシュにより『ホビーショップエルゴ』に設置される事と相成った。 かくして、エルゴのバトルフロアには神姫サイズの自動販売機が設置され、休憩スペースにおいてマスターと神姫が個々の好みのドリンクを片手に、今まで以上に賑わう事となったのである。 だがこのマシン設置の裏側に上記の壮絶なドラマが存在する事を、多くの人は知らない。 「私にはグレープジュースを頼む」 氷は抜きで。 神姫サイズの紙コップに黄金色のドリンクが注がれてゆく。途方も無い技術の塊とは思えないほどの手軽さで神姫サイズのグレープフルーツジュースは完成した。こんな極小サイズで精巧に動くこの筐体を初めて目の当たりにし、製作秘話を知らないおれでも製作者に最大限の敬意を持った。 大会の二回戦目は大いにてこずった。 敵の武装構成は大幅に手を加えられており、コンセプトを一言で表せば突撃兎型。武装はバズーカ、フックショット、マイクロミサイルランチャーをひとまとめにした統合武装火器を一丁装備。全身を覆う重装甲に背面高機動ユニットを装着した出で立ちのバッフェバニーによる執拗な攻撃がシルヴィアを襲った。 一個の兵器を評価する際、一般的に重視される能力は『攻撃力・防御力・機動力』の三点である。この評価はバトルステージに立つ神姫にも当てはまる。これらの要素はお互いにバランスを取り合うように存在しているのだ。『攻撃力』と『防御力』を上げれば重量がかさみ『機動力』が落ちる。『機動力』を上げるためには『攻撃力』と『防御力』を削る必要がある。『機動力』をそのままに『攻撃力』を上げるためには『防御力』を削ぎ落とさなくてはならない。云々。あっちを立てればこっちが立たずのジレンマの連鎖、トリレンマが延々と付き纏うのだ。明確なコンセプトが見えるマスターは、この限られたリソースを神姫の戦術に合わせ、三点に的確に配分しているのである。 外部電源装置、パワーユニット装着などの手段を講じればリソースの底上げが可能である。だが、攻撃力の増強はある上限を超えれば過度の武装装着と言う手法を取らざるを得なく、複数火器扱いの煩雑さが足枷となり得る。防御力の増強は装甲過剰装備による可動クリアランスの低下、及び運動性の低下を招き、結果的に攻撃力と防御力の低下につながる。機動力の増強は、パワフルな機動ユニットの制御技術と高度な射撃及び格闘能力が無ければかなわない。 明確なコンセプトを打ち立て、余りあるリソースを適切に配分しなくては強化足りえないのだ。もちろん創意工夫と取捨選択により上記の欠点を抑えつつ強化する事は可能であるが、即ちマスターの武装選択センスと神姫の高い能力無しには無し得ないパワーアップなのである。手軽に取れる手段では無い。 だが今回の相手、敵兎型の装備する武装センスと、それらを操る神姫の手腕は洗練され尽くしている。重装甲により高い防御力を実現。パワーユニット兼機動ユニットを背負う事で機動力を確保、さらに複数火器を一つにまとめる事で総重量を抑え機動力低下の懸念を解決している。総合攻撃力こそ控えめなものの、右腕に装備された統合武装バズーカ『カリーナ=アン』のコンセプトは明確である。即ち、「マイクロミサイルで撹乱しフックショットで押さえつけバズーカで粉砕する」。脅威の度合いは、限りなく高い。 こんな敵に小細工は通用しない。真っ向勝負だ。 シルヴィア、飛翔。敵の唯一の弱点である低い運動性に付け入るために、近距離射撃戦を敢行する。 ホットココアを片手に、スクリーン上で繰り広げられるバトルの戦術分析を続行していると、こちらの度肝を抜く神姫が出現した。コートを羽織った犬型。カバンやコートの中に武装を仕込む暗器使いとして分析を続けていたのだが。彼女が劣勢に追い詰められると何と発光、そしていかにも戦闘には不向きな、こう、「ヒラヒラでフリフリ」とした衣装へと変身を遂げたのだ。いや落ち着け、あれは武装換装の一形態だ、と分析を続行したが、珍妙な名乗りを可愛らしい声で述べられると、おれは口に含んだホットココアを吹き出すしか無かった。なんだあれは。理解不能。だが顔を真っ赤に染めながら変身後の前口上を述べるハウリンタイプを見れば、マスターの明確な意図が心に響く。 おれは心の中で静かに親指を立てた。 グッジョブ。 心の栄養を補給し、引き続き戦術分析を続ける。 続く 戻る TOPへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1801.html
鋼の心 ~Eisen Herz~ 登場神姫の武装紹介 アイゼン #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (Eisen01.JPG) 【ファルクラム】(fulcrum) アイゼンの標準装備。 ストラーフの各種装備を中心とした、オーソドックスな重量級神姫。 主兵装は2門の【FB256 1.2mm滑腔砲】で、弾種は【徹甲弾】【榴弾】【散弾】の三種を撃ち分けられる(弾薬選択はセレクターではなく、マガジン交換によって行う)。 副兵装は同じくフォートブラッグの【M16A1アサルトライフル】で、主砲リロード中の牽制や対空砲火として使用する他、軽装甲高機動の神姫相手ならば主力としても使用する。 補助兵装として使用するハンドガンも、やはりフォートブラッグの【FB0.9V アルファ・ピストル】で、『ハンドガンの利点は携帯性』と言う観点から小型拳銃として選ばれたもの。 近接武装としては【アングルブレード】【フルストゥ・グフロートゥ】【フルストゥ・クレイン】を二本ずつ備えており、多角的で手数と威力を両立させた攻撃が得意。 ただし、めんどくさくなると装甲に任せての力技に持ち込むので、目が離せないのだとか……。 これらの各種近接武装は、通常時【アングルブレード】をチーグルの内側に、【フルストゥ・グフロートゥ】【フルストゥ・クレイン】は背中に装備している。 特に背中の、【フルストゥ・グフロートゥ/クレイン】は放熱板としても機能しており、緊急放熱時には重なっている部分が展開し、あたかも2対の翼を持つ悪魔のように見えるとか……。 なお、脚部のタンクは増槽であり、追加の燃料が入っている。 外部に剥き出しではあるが、混合前の原液である為、被弾による爆発の心配は無いらしい。 もちろん、使った後は投棄し、機体を軽量化できる。 設計思想としては、腕部の重量を増大させることによりカウンターウェイトとしての効果を狙い、ストラーフの長所であるパワーで短所である機動性の低さ補った形の武装になる。 重量のある腕を振り回す事で反動を得、瞬間的にではあるがストラーフの域を超えた回避力を発揮することが可能。 更に、切り札として。収納状態の【FB256 1.2mm滑腔砲】を、反動抑制をカットした状態で発砲し、反動で拳の速度と威力を爆発的に増加させた“必殺技”とでも言うべき攻撃法、『ブーストアーム』を持つ。 ただし、空ぶった場合はチーグルの肘間接に反動が全て集中するため、おそらくは間接部の破壊により使用不能になると推測される。 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (Eisen02.JPG) 【バックファイア】(Backfire) アイゼンの砲戦装備。 第二話において、フェータと戦うために一晩で組み上げた砲戦装備。第七話でも使用しているが、基本的には緊急時用の予備武装。 主兵装は【ファルクラム】と同様に【FB256 1.2mm滑腔砲】で、副兵装に【M16A1アサルトライフル】、補助兵装に【FB0.9V アルファ・ピストル】を装備しているのも同じ。 【ファルクラム】の格闘能力をオミットした簡易設計に過ぎないが、【FB256 1.2mm滑腔砲】がバックパックに直接装備される形状となったため、弾種選択がセレクターで行えるようになっている。 これは、バックパック内部からの給弾で【徹甲弾】、砲に装填されたマガジンから【榴弾】を薬室に送り込むことで弾種を使い分ける仕様。 ちなみにこの装備では【散弾】は使用不能(微妙に弾の長さが違う為)。 また、バックパックからの直接給弾である為、装弾数が倍近くまで増加しているのも利点の一つ。 もちろん、事前に必要があると分かれば、【徹甲弾】と【榴弾】を入れ替えて装備することも可能。 とは言え、地味に命中精度が上がっているのが、実は一番のメリットだったりもするが……。 【フランカー】(Flanker) 対四姉妹(土方京子の神姫)用に開発されたアイゼンの切り札。 アサルトフォーム、フライトフォーム、ライダーフォームの三形態に変形し、強力な【レイブレード】と【斥力場シールド】を武器とする。 元々、四姉妹に対抗する為に四姉妹の持つ能力を再現する方針で作られたデッドコピーであり、個々の性能は四姉妹には及ばない。 また、【斥力場シールド】を持つとは言え、装甲自体の防御力は【ファルクラム】等と比べると明らかに見劣りし、パワーそのものもかなり低下している。 そのため、アイゼンの得意とする戦法とは合わず、100%のポテンシャルを引き出せるとは言いがたい。 それを補って尚余りあるのが、リーナの開発した超高出力のエンジン【メルクリウス】であり、これをパワープラントとする事で各種機能の強化や追加機能を使用し基本性能を補う事になる。 【レイブレード】 武装に割く余裕の少ない【フランカー】にとって、飛び道具は装備し辛い部分が多く、元より飛び道具の効かないカトレアを相手に戦うことも想定されていた為主兵装として抜擢された武装。 奇しくもカトレアと同じ武器であるが、製作者の技術レベルの差異がその性能の差として顕著に現れている。 結果として稼働時間も威力もカトレアの【レイブレード】には遠く及ばず、2刀を持ってしても太刀打ちできなかった。 【ハイパー・レイブレード】 主兵装である【レイブレード】をエンジンユニット【メルクリウス】に直結させる事で、強力な出力と実質無制限となる持続性を獲得させた形態。 威力はカトレアの【レイブレード】に勝るとも劣らず、非常に強力。 ただし、エンジンユニットごと振り回すために重く、攻撃速度はどうしても遅くなる。 リーチは非常に長い為、剣と言うよりもむしろ槍として運用される。 【フェルミオン・ブレイカー】 基本的に重火器を有さない【フランカー】の追加装備。 速射可能で威力と効果範囲も凄まじい陽電子砲だが、弾薬と砲身が一体化した砲撃ユニットが使い捨てである。 その為、一度の出撃で最大2発までしか使用できず、使用時は【メルクリウス】と直結させねばならない為、一部の機能とは併用できない。 しかし、それでも威力はブーゲンビリアの【ユピテルレーザーシステム】の“class1”程度でしかなく、“class3”、まで存在する【ユピテル】に比せる性能では無い。 その上、使用コストが膨大であり、一発辺り500円もする。 これは、高校生がゲーセン(神姫センター)で使うには高すぎる金額だと言えよう。 尚、【フェルミオン・ブレイカー】を有している【フランカー】を【ストライク・フランカー】と呼称する。 【カロッテP12】 機動性の高い【フランカー】運用時には、【ファルクラム】使用時の【FB0.9V アルファ・ピストル】では命中率が不足する事から、新たに補助兵装として選定されたもの。 これ自体には特に改造は施されていないものの、基本性能の高さとレーザーサイトによる命中率の補強は充分実用に耐えられる。 銃器に関し『Vulcan Lab』社がトップクラスである事の証左。 【メルクリウス】 多機能を誇る【フランカー】の中枢であり、最重要部位でもあるエンジンユニット。 開発をリーナ・ベルウッドが担当しており、同クラスの神姫のパワープラントとしては最先端クラスの性能を誇る。 この超高出力エンジンこそが【フランカー】の全戦闘力を支えると言っても過言ではない。 【斥力場シールド】 装甲の薄い【フランカー】を補う為のバリアシステム。 メインジェネレーターである【メルクリウス】に合計8器が内蔵されており、同時に8枚の斥力場フィールドを形成することが可能。 8枚を全面に展開しフルバリア(全周囲防御)として使用する事も、一方向に集中して鉄壁の盾として使用する事も可能。 当然ながら集中防御の方が強度は高い。 防御力の方はモデルであるカトレアの【イージスの盾】に比してかなり劣っており、集中防御でようやく対等である。 もちろんその状態で全周囲防御を実現しているカトレアの方が遥かに性能は高い。 【フライトフォーム】 機動性を極限まで向上させた形態。 戦闘モードであるアサルトフォームよりも機動性に勝り、高い回避力を誇る反面、装甲は薄く防御力は激減している。 この形態でも【斥力場シールド】は使用できるが、使用中は機動性が極度に低下する為通常はOFFになっている。 基本的に上に乗るか、下にぶら下がって使用する為、戦法としての自由度は高く、補助AIによる自律行動可能な為、ある種の【ぷちマスィーンズ】であるとも言える。 【ライダーフォーム】 移動力に特化した【フランカー】の一形態。 基本的な構成は【フライトフォーム】と大差ないが、飛行能力を捨てている分、最大速度が向上している。 構成が同一である以上、この状態でも【斥力場シールド】は使用可能。 もちろん、使用時には最大速度が低下する。 尚、上記の【フライトフォーム】と、この【ライダーフォーム】において、敵に向かって加速した後【斥力場シールド】を展開し、突進する攻撃をアイゼン自身が考案しており、纏めて【シールド突撃】と称する。 【アクセルモード】 反応速度の鈍いアイゼンの限界を補う為の補助装備。 思考速度を極限まで加速させると同時に、身体機能のリミッターを解除する諸刃の剣。 使用する事で身体、AI双方にダメージが蓄積される為、長時間使用も連続使用も不可能。 ただし、高速戦闘に不向きなアイゼンがそれを行う為には必須の装備であり、使用せざるを得ない局面は極めて多い。 アイゼン曰く、「使用中は頭痛がする」との事。 因みに、アイゼンの場合、反応速度はこれを使用してようやくカトレアと同等。 このシステム自体にも限界がある為、元々反応速度の高い神姫には余り効果が無い。 フェータ 【ファルクロス】 フェータの標準装備。 ノーマルのアーンヴァルから一部の装甲をオミットし、軽量化したもの。 武装が刀一本と言う事もあり非常に軽量で、エクステンドブースター無しでそれに匹敵しうる最大速度をもつ。 更に、全備重量の軽さから、回避、加速などの挙動が軽快であり、機動性は極めて高い。 反面、装甲は非常に脆弱で、防御力は全く期待できない上、武装が限定されている為、リスクの高い近接戦闘を余儀なくされるという尖った構成。 ただし、フェータ自身の技量と機体特性の適合性は高く、高速且つ必殺の威力を持つ抜刀(居合い抜き)を可能としており、限定的とは言え、戦闘力は非常に高い。 なお【ファルクロス】とは、【ネストランザ】が開発された後に、【ネストランザ】との区別のために命名された呼称。 【ネストランザ】 島田祐一により作成された、アーンヴァル用の強化ウイングユニット。 出力が強化されたメインスラスターと、各種バーニアを装備しており、巡航能力、機動性の双方で高い性能を発揮する。 主翼は可変翼を採用しており、根元から角度を変えて機動性を更に強化する他、エアブレーキとしての機能も併せ持つ。 重量の増加により挙動の一部が重くなるので、それを相殺する為にバーニアを使用した細かな姿勢制御が必須であり、飛行タイプの神姫以外にはやや扱いが困難という欠点もある。 更に、相変わらず装甲は薄く、不意の被弾が致命傷になりかねないという弱点は残ったまま。 【フリッサー】 本来は【ストライクフランカー】用の防御装備であったが、仕様の変更により【ネストランザ】と併用するように調整されたもの。 基部に装備されたエネルギーパック(通称マテリアル)を使用して高出力の電磁衝撃波を発生させる。 原理的には電磁波と衝撃波を同時に放出するだけの単純な機構だが、高度な制御プログラムの支配下において様々な効果を発揮する多目的兵装となっている。 衝撃波をそのまま放射する事もできるが、射程距離は1m。有効射程ならば30cm程度と射程距離は極めて短く、飛び道具としては扱い辛いものの、その特性上単純な装甲厚では防御できず、同時に放出される電磁波により一時的な機能不全も起こり得る。 これによって齎される機能不全は、平均的な神姫で1秒程度、電子戦に優れた神姫であっても0.5秒程度の麻痺効果。 更に、この衝撃波には銃弾やレーザー、荷電粒子などを吹き散らす効果もあり、防御兵装としてフェータの防御を一手に担っている。 また、【フリッサー】は直接接触時にも使用可能で、【刀】を振動させる事により高周波ブレードとしての機能を付与し、切断力を向上させる他、相手の身体を直接掴んで発動させる事で気絶状態にさせる事も可能。 尚、【フリッサー】の弾数はかなり特殊で、装備されている3器のマテリアルは開放する事でそれぞれ、凡そ5回の【フリッサー】起動を可能とするが、解放後は時間経過に応じてエネルギーを放出してしまう為、15回全部使える状況は殆ど無い。その為、使用回数は3~12回前後と安定せず、運用には注意が必要となる。 【為虎添翼(イコテンヨク)】 フェータ愛用の刀。 特別な加工は特に無く、店売りの量産品である。 フェータの真の強さは特別な武器を必要とせず、何処にでも在り(場合によっては敵が持っている事もある)、簡単に購入できるこの剣で十全の力を発揮できる事にあるのかもしれない。 尚、作中で一度ストレリチアに折られている為、大会の前後で違うものを使用している。 大会前の刀は【ハラキリ丸】、大会以後の刀を【クビキリブレード】と呼ぶらしいが、美空がそう主張しているだけで、フェータ本人はそれを否定しているとか…。 レライナ 【レティナラティス】 高速戦闘型のサイフォス、レライナの通常装備。 サイフォスにしては軽装で、防御力は平均的な神姫と同レベルでしかない。 ただし、レライナの武器は神速を誇るダッシュであり、そもそもレライナをまともに狙うことそのものがまず困難である事を考えれば必要充分な防御力だと言える。 主兵装は通常のサイフォス同様【コルヌ】を使用する。 この【コルヌ】は通常のものと何ら変わらない性能であり、特別性は無い。 また、サイフォスとしては低い装甲防御力を補う為に小型のシールドが装備されているが、こちらは非常に頑強で、ガードしてしまえば殆どの攻撃は無効化できる。 【ペタルプレート】 レライナの機動性を向上させる為の追加装備。 外見はジルダリアの【フローラルリング】そのものであるが、むしろ幾つかの機能がオミットされた簡易品である。 そもそも、圧倒的な瞬発力を持つレライナにとって、機動性を代替する装備はむしろ速度の低下にしかならない。 そこで、設計者であるリーナ・ベルウッドは、ダッシュ(超低空跳躍)中のレライナを強制的に着地させ、即座に別方向へのダッシュを可能とする装備を模索した結果が【フローラルリング】であったと言う事になる。 その為に機動ユニットとしての継続的な使用は念頭に入っておらず、浮遊か瞬間的な加速(もちろん加速といってもレライナのダッシュには及ばない為、基本的にダッシュ中のレライナを強引に着地させるためにだけ使用される)しか出来ないが、これを駆使することでレライナは圧倒的な機動力を発揮し、瞬時に相手の背後へ回りこむ事すら可能としている。 ただし、レライナのダッシュは大量の電力を消耗する為、活動時間が制限されると言う欠点があり、この【ペタルプレート】を装備することによってそのリミットは更に短くなってしまう。 【追加バッテリー】 レライナの腰の右に付いている外部電源BOX。 圧倒的な戦闘力を誇るレライナ唯一の弱点である継戦能力を補う為に装備された追加バッテリー。 もちろん、これで完全にバッテリー不足が解消される訳ではないが、戦闘時間はそれなりの向上を得ている。 セタ 【ツインピレム】 砲撃戦を主体とするハウリン、セタの標準装備。 主兵装は2門の【吠莱壱式】と【ホーンスナイパーライフル】で、狙撃と曲射砲による間接攻撃が主な戦闘スタイル。 中でも【吠莱壱式】を曲射砲として使用する高精度砲撃は、魔弾と称されるほどの精度を誇る。 セタもまた、ハウリンの例に漏れず【ぷちマスィーンズ】を装備しているが、彼女の装備する【ぷちマスィーンズ】は攻撃能力を完全に廃した代わりに、通信及び索敵性能を大幅に強化されている完全な偵察ユニット。 これを利用して、遥か遠方の標的を目視せずに砲撃することが可能。 また、近接戦闘用の装備として【ハグタンド・アーミーブレード】2本を【吠莱壱式】の内側に仕込んでいる。 作中では、フェータを相手にまるで歯が立たなかったが、砲撃装備を廃したセタはそれなりの格闘戦能力を有する。 【ビビアニト=178式センサーイヤー】 デルタ、セタに装備される音響索敵装置。 音を聞く事で周囲の状況を把握するパッシブソナーとしての機能の他、アクティブソナーとしても使用可能。 パッシブ時には静音状態であれば神姫の稼動音すら識別可能な精度を誇り、直接視界の通らない壁向こうや、完全な暗闇状態での策敵も容易にこなす。 神姫はその本来の静粛性から、たとえ隠密タイプとは言え静音性にまで手を加えているものは少ない為、非常に有効な索敵手段として機能する。 更に、アクティブ時には自ら発した超音波の反響で索敵を行う。 反響索敵においては、物体に当たり、跳ね返ってくる音波を拾う事で周囲を把握する為、形さえあれば音が無かろうと透明だろうと探知できる。 ただし、この場合は壁向こうなどの索敵は不可能であり、探知距離も短くなってしまう。 尚、ソナーとは本来こういった反響索敵を意味する単語。 【魔弾=タスラム】 超長距離、視界外への精密砲撃。【ぷちマスィーンズ】による視界外、遠距離での着弾観測を使用し、射線の通らない目標への攻撃を可能としている。 弧を描いて飛来する砲弾は、途中に岩や森、壁などの障害物があっても、その上を通過して目標を正確に捕捉することが可能。 使用する砲弾が着弾地点の周囲に爆炎を撒き散らす【榴弾】である事に加え、発射角と使用する炸薬の量を調節することで、複数の箇所へ行った砲撃が、その着弾時刻をまったく同じになるように調節することも可能。 敵からしてみれば、数体の砲撃機に集中攻撃を受けているようなものであり、生半可な機動性では脱出は難しい。 【魔弾=ザミエル】 中距離、視界内での誘導砲撃。 弾速が遅い、という欠点を持つ【吠莱壱式】榴弾仕様の特性を逆手に取った攻撃で、先行して発射した【吠莱壱式】の弾頭を、後発の【ホーンスナイパーライフル】の高速弾で狙撃し、その弾道を変更すると言うもの。 精密砲撃を駆使するセタは、自身の放った砲弾の弾道を正確に把握している為に、それを自ら狙い打つのは決して不可能なことではない。 弾道を自在に変えられる為に、敵の予期しない方向からの攻撃はもちろん、回避する敵を砲弾で追いかける一種のホーミングすらも可能としている。 ただし弾道の操作中は、セタ自身一切の移動はおろか防御行動すら出来ない程に集中力を要するために、完全な無防備状態となってしまう。 デルタ 【トリプルダガー】 デルタシステムの標準モデル。 親機であるデルタ1と、子機であるデルタ2、3で構成される戦闘ユニット。 量子力学に基づく共有意識を有する構成であり、相互の交信には一切のタイムラグが無く、距離制限も存在しない。 もちろんあらゆる妨害も通用せず、理論上この交信を妨げることは不可能とされる。 このシステムは、テレパシー(ESP)と呼ばれる物を量子力学で再現したものであり、簡単に言えば一つの意識に3つの身体が与えられているようなものである。 このため連携は非常に高レベルであり、個々の性能の低さをそれで補う事で高い戦闘力を発揮する。 【自爆システム】 デルタシステムの特性を活かした非常に強力な攻撃。 高度な自律思考を行い、自ら組み付いてくる爆弾がどれ程効果的かはあえて語るまでも無いが、自分自身である子機を自爆させるため、本来はデルタ本体にも高い精神的ストレスが与えられるとされる。 それを防ぐ為、デルタには『痛覚』及び『感覚』が除去されており、自らの自爆に一切の躊躇を持たないようにされている。 神姫としては非常に歪んだ存在だが、本人は余り気にしてないらしい。 大会以後、専用の爆薬を内蔵するようになり、破壊力は更に向上したが、レギュレーションには完全に違反している為、厳密にはイリーガルとも呼べる存在(大会では【トリプルダガー】は使用しておらず、審査にはかけられていない)。 【ロンクロイム=速射砲】 デルタの標準装備となる速射砲。 フォートブラッグの標準装備である【FB256 1.2mm滑腔砲】をベースに連射性と携帯性を向上させた武器。 火力の高さは【FB256 1.2mm滑腔砲】譲りであり、構造も単純で信頼性も非常に高い。 ベースに比べ、遠距離での命中精度に難が有るが、中距離以内では連射性の向上と取り回しの良さを活かした制圧射撃が可能。 対地、対空、中距離狙撃、弾幕と、様々な用途で使用できる非常に便利な火器。 尚、典雅の製品として販売される予定。 【ビビアニト=178式センサーイヤー】 デルタ、セタに装備される音響索敵装置。 デルタシステム用のオプションが追加されているが、基本的にセタのものと同一性能。 性能、外見は変わらないが、こちらの方は試作機である為、配線が整理されておらず少々整備に手間がかかるらしい。 典雅の製品として販売されるやいな、大型の策敵装置としては空前の売れ行きを見せ、同社の看板商品となる。 マヤア 【アーテリー】(artery) マヤアの標準装備。 何の変哲も無いツガルタイプの武装一式。 変形時のタイムラグを縮める為に幾つか手を加えられているが、その他はほぼ無改造。 しかしながら、機動性を中心にマヤアの強さを支える一要素であることは疑いようが無く、 ツガルの開発元である『Studio Roots』の技術力の高さを証明する好例。 ただし、ツガル本体と合わせ扱いこなすのが難しい事でも知られ、ポテンシャルを引き出せなければその性能は平均値にも及ばない。 そこそこ頑強なアーマーを各所に配し、その中にバーニアを仕込むという装備構成が防御+回避を高いレベルで実現しており、 遠、中、近と取り揃えられた武装が、高い機動性と相まって相手の不得意距離での戦闘を実現している。 更に変形し、ビークルモードになるなど、後々の神姫の多くが取り入れる事になる変形合体システムの走りとしての側面もある。 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/721.html
第5話 剣の舞姫(ソードダンサー) ついに来た。俺は、目前の多目的ホールの収まる建物を見上げていた。 今日、これからここで行われるのは”武装神姫ショウ”というイベントだ。 企業による次世代モデルの発表や会場限定品販売、個人ディーラーの自作品販売、新規ユーザー獲得の為の催しも充実している。 もちろんバトル大会も行われる。 バーチャルバトルで強くなったエルを公式戦に出すことを決意し、出場を申し込んだ。 会場前には、一般参加者の列が伸びており、今現在も伸び続けている。 俺はその列を横目で見ながら、メインゲートとは違う入り口へと向かう。 そこで大会招待状をみせ、入場証をもらい控え室へと案内された。 控え室はかなり広く、すでに数人の参加者が自分の神姫のチェックをしていた。 俺も与えられた一角に荷物を置き、持ってきたパソコンを起動させる。 「よし、出ていいぞ」 ペンケースのような箱を開けると、二人の神姫が起き上がる。 「マスター、いよいよですね」 「ああ」 アールの頭を撫でてから立たせてやる。 「あ、あたい……」 「緊張してるのか?」 無理も無い、この大会の模様はTVはもちろん、ネットにも配信される。 エルも同じように頭を撫でて立たせてやる。 「エル、ちょっとじっとしてて」 俺は、パソコンから伸びたコードをエルにつなぐ。 パソコンにさまざなな情報が表示されるが、異常個所は見られない。 「よし! OKだ」 コードを抜き、エルに答える。 それから俺たちは、パソコンに入れておいた簡易型ヴァーチャルバトルの対CPU戦用モードにてエルのウォーミングアップをした。 開始時間が近づいて、次々と参加者が入ってくるが、人数が少ない気がする。 「別にも控え室があるのでしょうね」 「だろうな」 アールに答える。 確かに、ここが広いといっても個人個人が持ち込む荷物がかなりあり、入れる人数が少なめみたいだ。 会場側もそのことを分かっているようで、個人に割り当てられたスペースがかなり広くなってる。 もちろん、俺のスペースも同様でパソコンとエルに使う武装一式と、メンテナンス用具しか持ってきていない俺にはかなり広い。 他の参加者を見回すと、およそ実戦向きでないようなドレスを着せている人、俺の用に2,3人の神姫を連れて来ている人などが居る。 「この全てがあたいのライバルなんですね」 俺が他の参加者を見ているのに気が付いたのだろう、エルがそう言ってきた。 「ああそうだ。こわいか?」 エルの頭を撫でると、ふるふると首を横に振る。 「ううん、マスターと姉さんがついてるから平気」 エルはニッコリと笑った。 控え室にスタッフが入ってきた。 「これより、武装神姫バトル大会が始まります。参加者の皆さんは、バトルに参加させる神姫を素体状態で持ち、順に廊下へ並んでください」 それを聞いた参加者が立ち上がり、神姫を連れて出て行く。 「じゃあ、行ってくるよ」 「はい」 アールにそう言って、エルを持ち廊下に出た。 スタッフに連れられて廊下を歩いていると、向こう側からも同じように歩いてくる集団があった。 二つの集団の合流地点で右に曲がり会場へと目指す。 ステージに全員が並ぶと、スポットライトが当たると同時に大歓声が巻き起こった。 『ここに集まった戦士たち。目指すは優勝という栄光。このステージに立てばルーキーもランキング一位も関係ない』 『あるのは、そう、今現在の能力の優劣のみ。さあ! 始めよう! 栄光を目指す挑戦者達の競演を!』 『注目せよ! これが栄光への階段だ!!』 大音量のナレーションと共に、俺たちの背後にある大スクリーンにトーナメント表が表示された。 バトル参加者に見えるように、ステージに置かれたモニターには同じ様子が表示されている。 『エントリーNo1』 ナレーションと共に個人にスポットライトが当たる。それと同時にトーナメント表に名前が入る。 名前が入るたび、ギャラリーから大歓声が上がる。そして、俺は一回戦最終組となった。 その後、俺たちは控え室に戻ってきた。 「まだドキドキしてるよ」 エルが胸を押えて興奮を隠しきれない様子だ。 「じゃあ、調べてやろうか?」 「やん」 俺がいやらしい指の動きでエルに迫ると、身を翻しエルが逃げる。 「あははは」 「うふふふ」 「くすくす」 俺たち三人は一斉に笑い出す。エルもリラックス出来たようだ。 しかし、異変は突然やって来た。 そろそろ準備をしようとしていたときだった。 「マスター!」 アールが叫ぶ。 アールの方を向くと、そこにはぐったりとしたエル。 「どうした! 大丈夫か?!」 エルの反応は無い。 急いでエルにコードを挿し、機能チャックする。 「原因不明の動力停止、それによりAIがスリープ状態か」 パソコンからエルに再起動指令を与える。 「反応なし。再起動できない……」 「マスター……」 心配そうなアールに説明する。 「エルは機能停止して、復帰出来なくなってる。AIはスリープしただけだから、起動さえ出来れば……」 「マスター、動く動力……ボディがあればいいんですよね」 「そうだが、そんなもの持ってきてないぞ」 最低限の物しか持ってこなかったことを悔やんだ。 「あります」 「え?」 俺はそういうアールに驚く。 「………ここに」 そういって自分の胸を押えるアール。 「使ってください」 「いいのか?」 コクンとうなずくアール。 「ごめんなアール」 俺はそういって、メンテナンスベッドにアールを寝かせ、機能停止させた。 ボディ破損などによる交換手順は知っていたが、いざ行うとなると違う。 胸部カバーを外し、CSCを引き抜き、壊れないように刺さっていたスロットをメモして紙で包む。 それから、アールのヘッドを外し、エルのヘッドと交換した。 エルのCSCをアールに刺し、カバーを閉じる。 「たのむ、起動してくれよ」 俺は祈るように起動指令を与えた。 「ん…んん」 エルが起き上がる。 「あれ? あたい、いったい」 「機能停止したんだ」 「そっか……え! どうして!」 自分の身体をみておどろくエル。 「起動できなくなったボディの変わりに使ってって言ってな」 エルに説明すると、泣きそうになった。 「エル、泣くな。エルは戦って勝つことだけ考えろ」 「うん……」 そういってエルは、頭だけのアールを抱きしめた。 「いくぞ」 「うん」 エルに武装をしていく。足にストラーフのレッグパーツ、太ももにアーンヴァルのシールドパーツ。 背中にサブアームユニットとアーンヴァルの翼にレッグパーツのブースター、肩にアーンヴァルのシールドパーツ。 頭にアーンヴァルのヘッドギアを付けた。 胸にストラーフのアーマーをつけたときエルが言ってきた。 「マスター、胸の名前のとこ、アール姉の名前も書いてくれよ」 「わかった」 そういって、胸に書かれた”L”の文字に重ねるように”R”を書いた。 背中にフルストゥ・グフロートゥとフルストゥ・クレインを取り付け、レッグパーツにアングルブレード。 手首にアーンヴァルのサーベルを取り付けて武装完了。 そこまで行った所で、スタッフの声がかかった。 「陽元さん、準備をお願いします」 俺は、不正パーツのないことを審査してもらう為、エルを提出した。 そして俺は戦いの舞台へと向かった。 ステージに上がると、再び大歓声に迎えられる。 バトル用のブースにつくとすでにエルが準備されている。 俺は、備え付けのインカムをつけて、エルとの交信状態を確認する。 「エル、聞こえるか?」 「おう、マスター聞こえるぞ」 「いいか、お前は一人じゃない。アールと一緒に二人で戦うんだ」 「マスター、その計算、間違ってるぞ」 「え?」 「あたいにはマスターの気持ちが注がれている。アール姉にもマスターの気持ち……いや、愛だな。アール姉の場合は」 「お、おい」 「あはは、気づいてないと思ったか? 相思相愛、熱いねぇ。とにかく、あたいとアール姉と、あたい達に対するマスターの気持ち。合わせて四人だ」 「……そうだな。だから絶対負けないさ」 「おうよ」 「いくぞ!」 「おう!」 バトル開始の合図が鳴った。 開始と同時にエルはヴァーチャルステージへと移る。 ゴーストタウンステージに光の柱が現れ、光が消えると同時にエルが現れた。 こちらのモニターでは確認できないが、相手もどこかに現れたはずだ。 エルは出現地点からまだ一歩も動いていない。 いや、動いていないわけではない。 その場で左右の踵を交互に上げ下げをしてリズムを取っている。 どこからともなく、猫型ぷちマスィーンズが襲い掛かる。 エルは尚も足踏み状態だ。 猫ぷちの砲撃がはじまるがエルには当たらない。 いつのまにかサブアームにフルストゥ・グフロートゥを持ち、くるくる回転させることにより弾をはじく。 猫ぷちが突撃してくると、エルは優雅に足を振り、足先の刃で突き刺し、地面に叩き落す。 しかし、身体の軸はぶれずに、サブアームのフルストゥ・グフロートゥを回転させたままだ。 「さて、そろそろ公演開始しようか」 「OKマスター」 にやっと笑いそういうと、エルは目を開き、アングルブレートを自分の両手に持ち、前方へ大きく飛び出した。 そして、身体を回転させると同時にアンブルブレードを振り、猫ぷちを斬ると光となって消えて、退場扱いになった。 「まず、2機」 身体の回転を止めると同時に、サブアームのグフロートゥを左右別方向に投げる。 刃の飛ぶ先に猫ぷちがそれぞれ位置して、貫通する。 「はい、4機」 猫ぷちの倒されたことによる退場を確認すると、アングルブレートをサブアームに持たせゆっくりと飛ばしたグフロートゥの方へ歩いていく。 辿り着くなり足先で思い切り蹴り上げると、そのまま回転し後方に回し蹴りを放つ。 足先の刃に今度は犬ぷちが突き刺さっていた。足を下ろすと同時に退場する犬ぷち。 エルはすっと腕を伸ばすと先ほど蹴り上げたグフロートゥが落ちてきて手に収まる。 驚いたことにグフロートゥには犬ぷちが刺さっていて退場していった。 「6機か、あと2機くらいいるだろう」 サブアームの手首を回転させアングルブレードを地面に突き刺した。 「7機目」 エルが呟くと、地面から退場の合図の光が漏れた。 突然エルが上を向き、身体を回転させてその場所から離れると、さっきまで居た場所に犬ぷちの乱射が降って来た。 サブアームのアングルブレードを軽く放り投げ、自分の腕で持つと、跳び上がり下から犬ぷちを薙ぎ払う。 「8機、これで打ち止めだろう」 エルは一旦全ての武器を収めた。 ここまでの戦いを見ていたギャラリーは静まりかえっていて、エルが武器を収めると同時に轟音と化した感性が沸き起こる。 見ていた誰もが同じ感想をもったことであろう。 それは戦いというより、”剣の舞い”だったと。 「エル、レーダーに反応は?」 「いまんとこ無しだぜ、マスター」 「そうか、こっちから動くか」 「OK! 恥ずかしがり屋さんを迎えに行きますか」 エルが探索の為に歩いていると、弾が落ちてきて煙幕を吐き出す。 「エル!」 「大丈夫だ! たぶんここから出たところを狙い撃ちっていうことだろうが、そうはいくか!」 エルはブースターを全開にして飛び上がる。 するとエルを追うようにマシンガンの乱射が迫ってくるが追いつかない。 エルが上空から確認した相手の神姫は忍者素体にハウリンのアーマー、両肩に吠莱壱式、背中からストラーフのサブアームを二対ついている サブアームには、STR6ミニガンを2門、シュラム・リボルビリンググレネードランチャーが2門装備されていた。 足はマオチャオのアーマーで、エルとは対照的な射撃に特化しているようだ。 轟音と共に両肩の吠莱壱式が火を噴く。 エルは上空に停止しフルストゥ・クレインを自分の腕で、サブアームにフルストゥ・グフロートゥを持つ。 四枚の刃を蝶の羽の用に合わせて防ぐ。 さらに、グレネードランチャーやミニガンをも合わせて撃ってくるが、四枚のグフロートゥとクレインで全て防いだ。 銃は効かないと思ったのか、忍者が飛び上がりハウリンの腕が下から襲い掛かる。 「気をつけろ! 射撃戦用が接近してくるのは、何か隠してるぞ」 俺はエルに注意を促す。 「分かってるって」 エルは上体を反らせてかわし、そこから地面へと急降下。 その一瞬後、エルの居た位置に相手の背中から伸びた、マオチャオの腕に取り付けたドリル空を切る。 エルより遅れて着地した忍者がマオチャオの腕を出すと、両腕にドリルがついていた。 ハウリンとマオチャオの腕、サブアームが二対、合計八本の腕が出揃った。 「まるで蜘蛛だな…」 正直な感想をもらす俺。 「マスター、作戦は?」 「んじゃ、蜘蛛の足から落としていくか」 「OK! 派手にいくぜ」 エルは相手に向かって飛び込み、発射間近だった吠莱壱式にアングルブレードを刺しこみ、バク転で逃げる。 大爆発と共に吠莱壱式とマオチャオの腕が吹き飛ぶ。 「まず二本!」 エルが叫ぶ。 爆発でうろたえる相手の頭を優雅に飛び越えの背後に回り、フルストゥ・クレインとフルストゥ・グフロートゥをサブアーム基部に突き刺す。 そして、ジャンプして足で押し込むとそのままジャンプして飛び越える。 「これで六本!」 倒れた忍者が起き上がると同時に、ビームサーベルを両手に持ち懐に飛び込んで相手を貫いた。 相手は、ヴァーチャルフィールドから消えてエルの勝利が決定した。 エルはビームサーベルを収めて左手を腰に当て、右手は頭上に高く掲げる。 そして、タンタンと大きく二回足踏みをして音を鳴らすと、キッとポーズをとった。 この日最大であろう、大歓声がエルと俺を祝福する。 控え室に戻った俺たちは、結果をアールに報告した。 「アール姉、勝ったぞ」 エルは武装をつけたままで、アールの頭を抱きしめる。 「よくがんばったな」 俺はエルの頭を撫でる。 「この調子で二回戦もがんばるぞ」 「おう!」 エルは勝ち進み、ベスト8まで行ったが、そこで負けてしまった。 そのときの相手が今回の優勝者だった。 俺の部屋の本棚の最上部に二つ目のアクリルケースが置かれることになった。 一つ目には、壊れたストラーフの素体。 二つ目にはストラーフの胸アーマーをつけたアーンヴァルの素体がストラーフの素体を抱きしめている姿になっている。 頭がない分ちょっとシュールになってしまっているが。 結局、エルの素体は起動しなくなったので新しいのを買った。 エルの使ったアールの身体をアールに戻すと、記念だから残して欲しいと言われ、アールの素体も新品にした。 それからもアールとエルは仲良くダンスをして俺はそれを眺め、エルをバトルさせるといういつもの生活が続いている。 大会を見ていた誰かが付けた、エルの二つ名”剣の舞姫(ソードダンサー)”が日本中に広まるには、あと少し時間が必要だった。 戻る 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2683.html
赤い月が天窓に浮かぶ屋敷の広大なエントランスにて、銀色の輝く番犬が月光に照らされて鋭利な牙を光らせた。 その牙の先には床から壁から角から天井からと縦横無尽に跳び回る黒色と紫色の不躾者。 不躾ながらも一筋縄では往生しない実力者であるらしく、青いツインテールの彼女は既に何本もの番犬の牙から逃げ切っている。 されとて犬達の戦意は意気揚々と怖れず止まらず諦めずの精神を以て不躾者を仕留めてみせんと空を切った。 金属同士が鎬を削り合う際の荒い音が西洋風の屋敷の中で舞い踊ってはそそくさと舞台の外へ立ち去る。 既に何百と繰り広げてきた無骨な音の舞踏会は、しかし一人の役者と力不足によって台無しにされようとしていた。 ほんの僅かな隙、それこそ高名な評論家であっても見逃すであろう奇跡の隙間を番犬の一本が通り抜ける。 不躾者が自身の失態に気付いた時にはもう遅く銀色をした牙に腕一本を噛みつかれてしまう。 不意に受けた攻撃に反射的に動きを止めてしまった時にはもう遅く、番犬達の操り手であるメイドが静かに語り掛ける。 「殺人ドール。」 ミニスカートのメイド服を着たハウリンの宣言と共に服の袖から十本ほどの銀製ナイフが跳び出す。 少しの間ハウリンの傍に浮かんでいたナイフは、やがて犬の手を借りる事も無く独りでにストラーフへと襲い掛かる。 全てのナイフはその肢体を突き刺し刃の銀の光が暗闇に溶けていたフブキ型武装の黒と紫の色を明確に照らす。 本来なら今の一撃で決まっていたのだが、そうならなかったのはストラーフがナイフの一部を弾き飛ばしたからだ。 対戦相手の冷静な判断に敬意を称しつつもしかしながらハウリンは手を止めずに同じ技で雪崩れの如く押し崩しに掛かる。 「殺人ドール。」 十本の番犬が再び襲い掛かる。 さながら影の悪魔を仕留めんとする銀色の光弾にストラーフはハウリンを見据えたまま後ろへと跳んだ。 バックステップを踏んだ程度でナイフは避けられない、後ろへと跳んだのは前へと進む為だ。 鉤爪のような形をしているフブキ型のフットパーツと屈指の強力を誇る副腕であるチーグルを以て屋敷の壁に着地する。 そしてほんの一瞬、両脚と副腕を屈ませて、ほんの一瞬でも十分に溜まり切る力を解放し思い切りハウリンへと跳び掛かった。 だがそれは先に放たれた技であるナイフの群れの中へと踊り込む事を意味している。 そんな事は常々承知しているストラーフは必死の覚悟と共に素体の両腕で急所となる頭部と胸部のみを守る。 右目を貫かれようとも喉元を食い破られようとも腹部を刺し穿たれようとも太腿を噛み千切られようとも止まらない。 二体を隔てる距離が神姫一体分となりハウリンを射程距離に捕らえたストラーフは副腕を振り上げる。 「デモニッシュクロー!」 例えナイフを無尽蔵に貯蓄している不可思議なハウリンであってもこの必殺の悪魔の爪は避けれず防げない。 そう確信して放っていたのだがその爪がメイド服を切り裂く寸前、ハウリンの姿が忽然と消えた。 「!?」 瞬間移動や超スピードといったチャチな類では一切無く何の前触れも無く居なくなった。 一人その場に残されたストラーフは何が起きたのかすらも理解出来ず周囲を見渡しハウリンの姿を探す。 だがどこにも居ない、そう思っていた矢先、彼女は、ストラーフの後ろに居た。 「ようこそ私の『世界』へ。そして、永遠にさようなら。」 「なっ…!?」 ストラーフは下方向を除く百八十度全方位を優に百を超える無数のナイフに囲まれている事の気付く。 催眠術や超スピード等チャチな物では断じてない現実にハウリンは終わりを告げた。 「幻葬「夜霧の幻影殺人鬼」!」 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァ!」 嵐の様なナイフが我が一番ナイフだと言わんばかりの猛烈な勢いでストラーフへと殺到した。 百を超える凶器に囲まれつつもストラーフはその眼の希望を夜闇に沈ませる事無く全身全霊を以て拳を振るい弾き飛ばす。 それでも尚、一本のナイフが肩に突き刺さり、一本のナイフが胸に突き刺さり、一本のナイフが副腕の接合部を破壊する。 「粘るわね…なら、駄目押しにもう一本!」 ハウリンが手を翳すとその手に何処からともなくナイフが現れる。 親指と人差し指で弾くように投げられたナイフは先行しているナイフをかい潜ってストラーフへと向かう。 ストラーフは先ずそれを弾き飛ばそうとし腹を殴ったが何故か奇妙な方向へと跳ねてそのままストラーフの頭部へと突き刺さった。 弾き飛ばされる事を計算に入れてナイフを投げたのか、そうだとすれば神業的な投擲技術である。 頭部を貫かれ両腕の動きが止まり抑制を失ったナイフに襲われ玩具の海賊船長の様な姿になったストラーフは崩れ落ちる。 だが崩れ落ちる寸前、手に持っていたハンドガンが火を吹いてハウリンの右肩を貫く。 完全に力尽きたストラーフのポリゴンの像が掻き消える瞬間にはあれほどの数のナイフは全て何処かへと消え去っていた。 勝者として一人残ったハウリンにジャッジマシンが祝福の判決を下す。 『ウィナー・サクヤ』 「最期まで勝利を望んでいたのね。貴方のその勝利への執念、このサクヤ、認めましょう。」 撃ち抜かれた右肩を抑えながらもメイドのハウリン、サクヤの姿が消え、そして誰も居なくなった。 …。 …。 …。 『刃毀れも大分ここに慣れてきたわね。』 バトルを終え、意識を現実世界の素体へと取り戻したイシュタルへと向けられた、サクヤの第一感想がそれだった。 黒野白太とイシュタルが今利用しているページは公式大会に出られない様な色物神姫とそのマスター達が集まる場所である。 偶然にもその場所の存在を知った黒野白太は一度そこでのバトルを覗いて以来、刃毀れというHNを使い色物神姫達との対戦を繰り広げていた。 今回の対戦相手、ハウリン型のサクヤは色物神姫達でも比較的穏やかな人物であり何度も戦っている強敵(とも)である。 そんな彼女にとって知り合いの成長と言うのは例えインターネットの回線を通しパソコンのモニター越しにしか知らなくとも嬉しいものらしい 『まぁ、もう百回は戦って負けてますからね。嫌でも慣れますよ。』 『大抵の神姫やそのマスターはここの連中と一度戦っただけでトラウマになるんだけど。負け慣れているのね。』 『ちょっとカッコ付けた台詞を言った後で結局負けた事もありましたから。そんじょそこらの敗北じゃ僕の心は傷付きませんよ。』 『それって竹姫葉月との戦いの時でしたっけ?』 『知ってるんですか?』 『御嬢様がテレビで見ていたのよ。』 『あぁ、成程。』 そう言えばあの大会の場にテレビカメラらしき物が回っていたような気もする。 黒野白太は眼中にしていなかったがあの大会には竹姫葉月以外にも高名な神姫プレイヤーがいたのかもしれない。 『でも、どんなに負けてもカッコ付けるのを止めない、そんな貴方に惹かれる人や神姫も居るのじゃないかしら。』 『居るとすればとんでもない根暗ですよ。僕、ファンレターとか一枚も貰った事ないですし。』 『貴方、手紙とか貰っても絶対に返さないでしょ。』 『勿論ですとも。ファンは自分の気持ちを伝えたくて手紙を送るのだから別に返さなくてもいいでしょう?』 悪い方向に歪みが無い黒野白太にサクヤは「やれやれだわ。」と扱いに困る子供を見る年上の女性のように優しく微笑む。 『それにしても前もその武装を使っていたわね。気に入ってるの?』 『ストラ・クモの事ですか。』 『ストラ・クモ?』 『初めはクモをイメージして組み立てたんです。ストラーフ型・クモ武装。だから僕は略してストラ・クモと呼んでいるんです。』 『実際の動きはバッタよね。ストラ・バッタにした方がいいんじゃないかしら。』 『その辺りちょっと気にしてるんですよ。後、ストラ・バッタじゃなんかカッコ悪いから嫌です。』 彼等が言う武装とはフブキ型の防具に初代ストラーフのリアパーツであるチーグルを組み込んだ武装の事である。 副腕で壁や地面を殴りつけて出す瞬発力と的確に相手の弱点を狙う柔軟性に重きを置いており急加速と急停止を繰り返す事で相手の撹乱させる戦法を主としている。足場となる物が多い屋内や障害物が多いステージでは無類の優位性を発揮し床と言う床を壁と言う壁を跳び回る姿は正にバッタと呼んでもいいだろう。 尤も黒野白太本人は初めはそういった特性に気付かず「クモっぽい」という理由から組み立てたものなので実際の性能がどうであれクモと呼ぶ事に固執しているのだが。 『でも、中距離から一気に近付いて斬りつけるのは僕好みの戦法なんです。機動力は低いから今回みたいにガン逃げされると厳しいですけど。』 『移動スキルや広範囲攻撃スキルで補うのはどう?』 『それは考えたんですけどストラーフ型ってSP低いから移動に使うと攻撃の方が疎かになるですよ。』 『ならチーグルは止めてFL017リアパーツを入れたら? グリーヴァと一緒なら高威力なスキルも発動出来るでしょう。』 『スキルは魅力的ですけど、あれ、重いんですよ。単純なパワーもチーグルに劣りますから瞬発力も下がりますし。』 『成程。良く言えば一長一短、悪く言えばままならないってことね。』 『そう言う事です。それでも今の武装を使っているのはヴィジュアルがクモっぽいからですよ。』 『動き方はバッタなのに?』 『あれは、バッタみたいな動きをするクモです。』 頑なにクモだと言い張る黒野白太であったが、ふと、デスクトップの向こうからくすくすと笑うサクヤの声が聞こえてきた。 『どうしたんですか?』 『今更だけど、貴方って普通よね。』 『普通?』 『そう。あの武装がいいかな、この武装がいいかな、なんて悩むなんて、まるで普通の神姫マスターじゃない。』 『そう言えばサクヤさんの武装はずっとメイド服とナイフですよね。時々魔法使ってきますけど。』 『むしろここではそれが普通よ? あらかじめ一つか二つ置く武装を決めて、それを重点に究める。沢山の武装を買うよりも一つの武装を改造した方が安上がりで済むし。』 『そのくせ、ここの人等は欠点無いですからねー。接近戦も格闘戦も銃撃戦も制圧戦も空中戦も海中戦も全てこなす上で何者も勝てない長所を持っている。サクヤさんも含めて異常者揃いですよ。』 『はっきり言うわね。否定しないけど。でも私達から見たら貴方の方が異常なんだけどね。』 『そりゃまぁ貴方達にとって僕の異常が普通ですし。』 『そういう意味じゃないわ。異常な武装を使う私達に普通の武装の貴方は勝とうとしている。普通なら異常には勝てないって諦めるはずなのに。実力差が分からない程、貴方は馬鹿ではないでしょう?』 『いや、だって勝ち負けに普通とか異常とか関係無いじゃないですか。』 『関係有るわよ。だって貴方、私達に一度も勝った事ないじゃない。』 『関係有りませんよ。普通が異常に勝てないって誰が決めましたか? 普遍が特別に勝てないって誰が決めましたか? 勝つ方が勝つ、それだけです。』 『じゃあ貴方はまだ私達に勝つつもりなの?』 『当たり前です。んでもってその時は今まで見下しやがった貴方達を指指して全力で笑ってやります。』 『性格悪いわね。じゃあその時まで私達は貴方を笑っていてもいいのかしら?』 『どーぞどーぞ。僕は特に気にしませんし。』 あっけらかんと言う黒野白太であるが、サクヤは笑わなかった。 『やっぱり貴方は充分に異常だわ。…勝利なんて何の価値も無いだろうに、何でそんなものを求めるの?』 『僕は勝ちたいだけの武装紳士です。勝ちたいから勝つ、それ以外に意味はありませんよ。』 『イシュタルも同じ意見なの?』 サクヤに話を振られてそれまで黙っていたイシュタルが返事をする。 『私はマスターのようには考えてはいないな。勝利だけでなく敗北にもまた価値があると思っている。それに私達が君達に勝つ日は無いだろうとも思っている。』 『じゃあ何で刃毀れを止めないの? 勝利以外は無価値だって言う刃毀れにとってここでの戦いは無意味じゃないの?』 『私が神姫だからだ。マスターは私の勝利を信じている。それが例え幼子の夢のような無根拠のものであっても、それに答えるのが神姫というものだろう?』 武装する神姫、武装神姫、その在り方は、ただひたすら、勝利を望むマスターの為に勝利を。 イシュタルの答えにサクヤはハッとなったようだった。 『驚いたわ。貴方達にもちゃんとした絆があるね。勝利で結びついた絆が。』 『果たしてそれを絆と呼んでいいのかと疑うがな。私のマスターは格闘技はやってないし手先は器用ではないし頭も良くし友達も居ないからバトルの大体は私は任せだ。むしろ無能とも言っていい。』 『うっわ、ひど。事実だから別にいいけど。』 『それでも私は貴方達に絆があると見るわ。確かにそれは歪ではあるけれどね。』 『サクヤさんはどうなんですか? 貴方のマスターと会話した事ないんですけど。』 『私には御嬢様がいるけど、御嬢様はマスターではなくオーナーね。人間じゃ私への指示が間に合わない。』 『サクヤさんですらもですか。サクヤさんですらそうなら、ここの利用者は皆、そうなのかもしれませんね。』 『そういう意味でも貴方達は異常なのかもね。マスターと神姫が一緒になって戦う普通の武装神姫。…ちょっとだけ羨ましいわ。』 『でも僕は適当に武装させたり指示出してるだけですし、イシュタルは勝手に動いているだけなんですけどね―。そのせいで結局は勝てませんし。』 『でも刃毀れはイシュタルを信じているんでしょ。』 『…まぁ、マスターが神姫を信じてやらなくて誰が信じてやるんですか。べ、別に勘違いしないでよね! ホントはイシュタルの事なんて何とも思っていないんだから!』 『男のツンデレって気持ち悪いわね。』 『同感だな。』 『言わないでください。自分でも本当に面倒臭い性格だって自覚しているんですから。』 神姫二体から罵倒されパソコンのデスクトップに向かってがっくりと頭を垂れる(一応)神姫マスター、黒野白太。 『でもハッキリ言って、僕が貴方達に勝てる可能性は零ではないと思っているんですよ。』 『あら、どうして?』 『ハッキリとした根拠は無いんですけどね。最強の武装はあるのかもしれませんが、無敵の武装は無いと思っているんです。何事も一長一短と言う一般論ですね。』 『私にも短所はあると言うの?』 『ありますよ。サクヤさんのナイフの量は確かに脅威ですけど所詮はナイフです。剣や銃弾で直接的に弾いたりするのではなく、爆風などで間接的に吹き飛ばせばいいのではないのでしょうか。』 『…成程。まぁ、間違ってはいないわね。』 『付け加えれば貴方達にはマスターが居てイシュタルには僕が居る。これもまた大きな違いです。』 『バトルにおいて人間の指示を聞くよりも神姫が自分で考えて動く方が効率がいいわよ?』 『それはそうですけどね。でも状況に対する柔軟性は僕達の方が上だと思っています。イシュタルが思いもよらなかった戦術に僕が気付くかもしれません。その逆も然りです。』 『でも貴方、無能じゃない。』 『一寸の虫にも五寸の魂です。』 『うちのマスターは自分が凄いと思っている誇大妄想野郎だからな。』 『イシュタルって容赦無く刃毀れを罵倒するわよね。』 『こんな奴を尊敬しろと言う方が無理だろう。』 『そのくせ刃毀れの為にバトルする事に迷いは無いと。』 『残念ながら私は刃毀れの神姫だからな。私が人間だったら知り合いにすらなりたくなかった。』 『イシュタルのLove度は-255です、はい。』 『カンストしてるのね。マイナス方向に。』 等と、和気藹藹と(だがこの中に人間は黒野白田一人しかいない)雑談をし、途中、サクヤが胸元から金色の懐中時計を取り出し、時間を見た。 『もうこんな時間。そろそろおゆはんの支度をしなくちゃ。』 『あ、そう? じゃあばはあーい。』 『出来たらまた今度、料理のレシピを送ってくれ。サクヤの料理は本当に上手い物が出来るからな。』 『分かったわ。それじゃあね。』 パソコンのモニターの向こうから、サクヤの姿が消えた。 それを確認した黒野白太もまた表示されていたページを閉じデスクトップに表示されているアナログな時間表示を目にする。時刻は約六時四十三分、窓から差し込んできた黄色味を帯びた光が満腹神経が刺激され内臓が言葉には出さずとも空腹を訴えかける。 立ち上がった黒野白太に合わせてイシュタルは彼の右肩に飛び乗って座った、そこが彼女の指定席であるからだ。 「じゃあ僕達もそろそろ夕御飯にしようか。今日は何作るの?」 「親子丼とごぼうのサラダ。昨日、卵が安かったからな。」 「分かった、じゃあ僕は親子丼の方を作ろうかな、サラダの方は任せたよ。」 「前みたいに弱火で加熱してしまい卵を発泡スチロールの屑みたいにしてしまわないようにするなよ。」 「分かってるって、強火で一気に、だよね。」 トントントンと小刻みの良い音の後に、ジュウジュウとフライパンが働く悲鳴の音が部屋に響いた。 神姫がマスターを見下し、神姫が罵倒し、神姫が戦い、神姫が勝利し、神姫が料理を考え、神姫が調理をする。 武装だとか戦法だとか実力だとかは普通なのかもしれない、けれどこういう日常も充分に異常で、けれど悪い物ではないと黒野白太は考えていた